前回までで寛政暦の日躔(太陽の運行)の説明が終わり、今回からは、寛政暦の月離(月の運行)について説明する。
貞享暦・宝暦暦の月離における運行遅速要素は、「月行遅速」すなわち月の中心差であった。
一般に、中心天体と周回天体の二体しかない場合、周回天体は正確にケプラーの法則に従って運行するので、運行遅速要素は中心差のみとなる。しかし、そこに他の天体が加わると、ケプラーの法則からのずれが生じる。
太陽の運行(地動説に従えば実際は地球の運行なのだが)においては、他の天体(月や惑星)の影響はあまり大きくないので、中心差だけで計算してもさほどの誤差にはならない(よって寛政暦の日躔では中心差しか計算していない)が、月の場合は、中心天体(地球)と周回天体(月)に加え、無視できない影響を及ぼす第三の天体が加わる。太陽である。太陽の影響によって月の運行は極めて複雑になり、ある程度正確に計算するためには多数の補正項を加味しないといけない。
寛政暦の月離においては、太陰平行(月の平均黄経)に、一平均(年差)、二平均(ニュートンが「半年差」と呼んでいる補正項に相当?)、三平均(ニュートンが「第二の半年差」と呼んでいる補正項に相当?)、初均(中心差、および出差?)、二均(二均差)、三均(ニュートンが「第二の中心差」と呼んでいる補正項に相当?)、末均(月角差?)、および、升度差(白経(白道上の経度)から黄経への変換差、つまり、道差)を加味し、太陰黄道実行(月の真黄経)を得る。
今回説明するのは、平行、一平均、二平均、三平均まで。