[総目次] 日本語の動詞活用形の起源

最新版(ファイナル版)


今まで考察してきたものをまとめて、論文形式にまとめてみたもの。
(2020.03.25 リンクを張り間違えていたのに気づき、訂正しました)

2020.02.02: 上代日本語の動詞活用形の起源 Ver. 3 (ファイナル版)

(要旨) 日本語の動詞活用語形の起源解明に向け,大野(1953)をはじめとして,様々な努力が行われてきた。それらの研究を踏まえ,本稿では動詞活用語形の形成についてひとつの仮説を提案する。具体的には,①連用形語尾は *-iではなく *-jeであったこと,②短母音後の子音r, s, jの脱落が起き,また,脱落により生じた二重母音が子音の硬口蓋性を維持して短母音化したこと,③未然形の語形整理がなされ,二段・一段動詞では連用形語形が未然形に使用されるようになったこと,④半狭母音の狭母音化・硬口蓋化子音後の母音の前舌化が起きたことを仮説の骨子とする。それぞれの傍証として,①イ乙の語形を持つ下二段転成名詞形,②自他交替語形,③動詞からの形容詞派生・受身形(る・らる形)・使役形(す・さす形),④上代中央方言と上代東国方言における語形交替をあげる。

旧バージョン

2016.04.24: 上代日本語の動詞活用の起源 ver. 1

  1. はじめに
  2. 自動詞他動詞ペアのパターン
    1. パターンの類型
    2. パターンの起源
    3. イレギュラーなパターンについて
  3. 動詞の活用形発生のシナリオ
    1. 動詞活用形の発生過程その1
      • ① 連用形の成立
      • ② 未然・終止形の成立
      • ③ 連体形の成立
    2. 動詞活用形の発生過程その2
      • ④ 二母音連続の長母音化
      • ⑤ 命令形の成立
      • ⑥ 短母音化(八母音化)
    3. 動詞活用形の発生過程その3
      • ⑦ 受身形・使役形の成立
      • ⑧ 連用形の未然形代用
      • ⑨ 已然形の成立

2016.09.18: 上代日本語の動詞活用形の起源 Ver. 2

  1. 仮説の骨子
  2. 初期状態
  3. Step 1: 陽母音 e と陰母音 i の中性母音化
  4. Step 2: 活用形の整備
  5. Step 3: 子音脱落
  6. Step 4: 第1次高母音化
  7. Step 5: 高さ調整
  8. Step 6: 逆行同化
  9. Step 7: 文法の整理
  10. Step 8: 未然形の誕生
  11. Step 9: 第2次高母音化と、中央語/東国語/琉球語の分離
(上記の仮説について、その後の考察(下記「関連雑文」)に基づきブラッシュアップしたもの)



関連雑文(動詞活用の起源 Ver. 1 ~ Ver. 2)

  • 2016.05.05: 春過ぎて夏来にけらし
    • 「べし・らし・らむ」等の終止形接続助動詞に上一段・ラ変がつく時、ルが脱落する現象について。
    • 過去助動詞「き・し」とカ変・サ変の関係?
    • 今、見直すと、ちょっと考察不足。まさに雑文。
  • 2016.05.14: 消える/消す、再び。そして蹴る。
    • イレギュラーな自動詞他動詞対応「消(き)え/消(け)し」は本来「越(こ)え/越(こ)し」等とと同様の四段C型自動詞他動詞ペア「消(け)え/消(け)し」だったが、半母音を挟んでの乙類エの連続を嫌って、「けえ > きえ」になったのでは?という仮説。下一段活用「蹴(く)ゑ」も本来「けゑ」か?という仮説。
    • 傍証として、上代東国方言で乙類エ段の二連続を嫌って片方を乙類オ段として発音しているように見える事象。
  • 2016.05.28: 「日本語に長母音あった」説と、上代東国方言
    • 上代東国方言では、四段活用動詞が終止形:ウ段・連体形:甲類オ段となる事象について。管見の動詞活用起源説 (Ver. 1) では、四段活用動詞が終止形:ウ段短母音・連体形:ウ段長母音、なので、これが上代東国方言における語形差として現れているのでは?という仮説。Ver. 2 への改版へのスタート地点。
  • 2016.06.12: かなるましづみ
    • 上代東国方言の未詳語「かなるましづみ」「かぬまづく」「こてたずく」について、打消形容詞語尾(ジク)だったとすれば意味が通りそうな気がする、という仮説。本題とはちょっとずれたネタ。
  • 2016.06.18: 現代日本語と上代日本語の自動詞他動詞ペア
    • 管見の動詞活用起源説 (Ver. 1) において、自動詞他動詞ペアパターンを四段A型・四段B型・四段C型・二段型・一段型・対称型に整理し、これ以外は例外的なパターンとした。それの裏とり作業。上代の自動詞他動詞ペア156例中150例が正格、例外的な例は6例のみで裏は取れたよ、という結論。
  • 2016.06.25: 奥舌優先 (u > o > a > i) ルール、三母音連続忌避・子音挿入ルールとは何だったか
    • 動詞活用起源説の Ver. 2 での主要な改版内容に関する議論。
    • 二母音が縮約して単母音となるとき、au > u, ua > u のように常に a よりも u が優先されているように見えるが、そうではなく、「母音の高さ調整 > 逆行同化」という、より音声学的に自然な変化で説明が可能ではないか、という議論。
    • 「三母音連続忌避(二母音連続の後に母音を付加する場合、子音挿入)」ではなく、「短母音間の子音脱落」だったのではないか、という議論。
  • 2016.07.09: 動詞のアクセントについて
    • 院政期の動詞活用形のアクセントについて。管見の已然形起源説(する得むは > すれば)が院政期の已然形アクセントと矛盾しないことについて。第3類アクセント (LHL) の動詞のうち、四段C型の自動詞他動詞ペアパターンを持つ動詞がやけに多いことについて。
  • 2016.07.16: 過去助動詞「き」のク語法は、なぜ「しく」か
    • アク説「ク語法 = 連体形+アク」からすると、過去助動詞「き」のク語法は「せく」になるべきだが、なぜ「しく」なのか。「サ変+過去助動詞」において、連体形「せし」なのに終止形「せき」でなく「しき」なのと関係あるのでは?という話。
  • 2016.07.23: 上代東国方言の打消助動詞「なふ」と、特殊活用助動詞の仲間たち
    • 上代東国方言の打消助動詞「なふ」のちょっと不思議な活用は、中央語における特殊活用助動詞と同じパターン(基本は活用しないが、未然形・已然形だけ活用する)に沿っているという話。
  • 2016.07.30: オ変格は母音調和の痕跡か
    •  これも、動詞活用起源説 Ver. 2 での主要な改版内容、日本語の母音調和 (有坂法則) についての議論。未然形・自動詞他動詞派生において、-a ではなく -o (乙類) になることがあるが、本来、陰母音語幹動詞には -o (乙類) がつくのが正格だったのでは? という議論。
  • 2016.08.07: 陰母音語幹の下二段活用動詞をどう考えるか
    • 乙類エを ai 起源と考えると、陰母音語幹の下二段活用動詞は有坂法則違反になってしまう。これをどう考えるかという議論。ここに書いたことをさらに突き詰めて考えた結果が、動詞活用起源説 Ver. 2 に反映されている。
  • 2016.08.13: 管見の已然形の由来説(連体形+「得」)について若干の補足
    • 已然形は「得」に由来する(する得むは > すれば)というのが管見だが、「バ・ド・ドモのつかない単独の已然形をどう考えるか」「連体形による準体節が『得』の目的語になっている語形だが、上代にそういう文法形式があったと考えていいかの再確認」という議論。
  • 2016.08.21: 八丈語と琉球語
    • 上代東国方言の直系子孫である八丈語、および、日本語の兄弟である琉球語について。
    • 両者に現れるオ段連体形について。琉球語で 上代日本語の乙類イが、イになったりエになったりする事象。琉球語のアクセントについて。
    • 詳しくない分野なので、私固有の考察はあまりないです。専門家の研究の紹介ですね。
  • 2016.09.03: [小ネタ] 完了リはなぜ下二段・上二段に接続しないか
    • 文字通りの話。
  • 2016.09.10: 動詞からのシク活用形容詞派生について
    • 二段動詞の未然形(受身形・使役形を含む)は連用形同形 (乙類エ段、乙類イ段) だが、本来はそうではなく、連用形を未然形に代用したことによってそうなった、本来は自動詞他動詞派生等と同じ形態 (ア段、ウ段、乙類オ段等) だった、というのが管見。
    • シク活用形容詞派生は、その中間形態(概ね自動詞他動詞派生と同じ形態をとっているが、陽母音語幹の上二段では連用形同形の形式も現れる)を示していて、管見の傍証となるのでは?という議論。

関連雑文(動詞活用の起源 Ver. 2 ~)

  • 2016.10.08: 「あしひきの」考: 下二段・上二段両用活用に見える動詞について
    • 「山」の枕詞「あしひきの」の「き」が乙類キなのは、「連用形: -e, 転成名詞: -i」だったことに起因しているのでは?という仮説。
    • この仮説を考慮することになったきっかけ、John Whitman 氏の日朝語の音韻対応説について。
  • 2016.10.23: i と e をめぐる諸問題
    •  私としては予想外だったのだが、「連用形: -e, 転成名詞: -i」説は、朝鮮語との文法比較からも導かれる説らしいという話。
    • 「連用形: -e, 転成名詞: -i」説をとることにした場合、動詞活用形の起源 Ver. 2 に対して必要な微調整事項について。
    • 動詞活用形の起源 Ver. 2「Step 6: 逆行同化」で起きた変化の音韻的解釈について。
  • 2017.04.01: 上代中央語と東国語の別れ路
    • 久々の投稿(エイプリルフールではありません)
    • 前回投稿で議論した「Step 6: 逆行同化」で起きた変化の音韻的解釈についての議論をもとに、子音の口蓋性有無の対立(直音・拗音対立)を、中央語では前舌化で、東国語では非口蓋化で解消した結果、両者の母音音価に相違が出る結果となったのではという仮説。
  • 2017.04.23: 奈可中次下
    • 2016.06.12「かなるましづみ」と似たテーマ。上代東国歌謡のいくつかの歌の解釈について、思うところを書いた。本題とはずれたテーマ。
  • 2017.05.14: 御木のさ小橋
    • əi 由来の乙類イ段が琉球語でエ段に合流する現象について。
      琉球語だけでなく、上代の北九州・東国でも同事象と考えられる例が存在し、日本語でもあったことと考えられること。同事象の音韻的解釈について。
  • 2017.06.17: 音便の法則
    • 本題とは外れたテーマだが、音便はどうして生まれたか、音便種類 (イ音便・ウ音便 ・促音便・撥音便) はどのようなロジックで選択されるのかを紐解く。
  • 2017.06.24: 音便の法則 補考
    • 前回の続き。イウ音便は、第一世代(キギクグ)、第二世代(ヒシ)、第三世代(ビミ)と発生時期が異なっているが、どのような音韻変化によってイウ音便していったのかを紐解く。
  • 2017.07.16: 上代東国歌謡の清濁仮名
    •  東国歌謡で万葉仮名の清濁を混用しているように見られるものについて。音韻上の問題 (中央語と実際の発音において清濁がずれていた) という可能性も考えられなくはないが、やはり、単に仮名表記上の問題であろうという平凡な結果を得た作業。
  • 2017.08.27:  上代東国方言の連体形
    • 上代東国歌謡(東歌、防人歌)で出てくるオ段連体形・形容詞連体形ケ等がどのように現れているかのルールを探る(そして、玉砕)。
  • 2017.12.10:  二段型の自動詞他動詞対応について考える
    • 上げ/上がり、籠め/籠りのように、二段他動詞/ラ行四段の他動詞・自動詞対応では二段側はすべて下二段だが、明け/明かし、起き/起こしのように、二段自動詞/サ行四段の自動詞・他動詞対応では、二段側は上二段が現れる。これは、aga-/agas-, kəmə-/kəməs-, aka-/akas-, əkə-/əkəs- と、自動詞母音語幹、他動詞子音 s 語幹と考えれば説明できるという話。
  • 2018.02.18: [小ネタ] とどみかね
    • 2016.10.08 の「『あしひきの』考」にて、「留みかね」の「留み」は連用形のように思われるけれども本来は転成名詞だったのではないかとしたが、東歌のなかに見られる「越えがね」等の「かね」が連濁しているケースは、この説の補強になるのではという話。

1 件のコメント:

  1. 動詞活用形の起源の記事を一通り読ませていただきましたが、大変な力作だと思います。
    貴方様の説は、今まで誰も解明できていない動詞活用形の起源を、完全に解き明かした可能性があると思います。
    論文投稿の結果は「惨敗」ということですが、再チャレンジされてはいかがでしょうか。
    このままブログだけに留めておくのは非常に惜しいです。どうにか日の目を見るような状態にすべきです。
    論文投稿に再チャレンジされるか、少なくとも何らかの形で自費出版されるべきです。
    それくらい人類の叡智にとって貴重な内容です。
    ご検討いただけるとうれしいです。

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