2016年4月24日日曜日

動詞活用形の起源についてー自動詞他動詞ペアパターンの分析から (3)


パターンの起源

冒頭で、以下のような音韻規則が日本語にあったと仮定したいと述べた。
  • 二母音連続(長母音を含む)はあってもよいが、三母音連続(長母音と短母音の連続を含む)はあってはいけない。
  • 形態素同士の結合によって三母音連続が発生する場合は、子音を挿入することによって三母音連続の発生を防ぐ。
上記を踏まえ、自動詞・他動詞の生成にあたっては、具体的に下記のルールを設定する。
  1. 自動詞・他動詞のペアには、自動詞を基本形・他動詞を派生形とするものと、他動詞を基本形・自動詞を派生形とするものがある。
  2. 基本形の連用形を作るにあたっては、共通語根+連用形語尾 i として生成する。
  3. 派生形の連用形を作るにあたっては、共通語根 + 派生語尾 a + 連用形語尾 i として生成する。
  4. 2., 3. で語尾を付加するにあたり、三母音連続が発生する場合は、自動詞では r/y、他動詞では s/t の子音を挿入して三母音連続の発生を防ぐ。
  5. 長母音・二母音連続は、最後に短母音化する。二母音連続を短母音化する場合、u > o > a > i の優先度で残す母音を決める。ただし、ai/oi/ui のように i が後接する場合は、a/o/u とはならず、そのまま残す(最終的には乙類エ/乙類イを経て、エ/イになるが)
さて、かつて日本語には長母音があったと仮定するので、子音おわり、短母音おわり、長母音おわりの共通語根について上記ルールを適用するとどうなるか見てみたい。
仮想の共通語根 ak, aka, ako, aku, kā, kō, kū から、自動詞が基本形のケースとして作ってみる。他動詞が基本形のケースでも r/s が逆になるだけである
 
共通語根
変形
出来上がり形
派生語尾 a 付加
連用形語尾 i 付加
短母音化
共通部分
末尾
ak
自動詞(基本形)
-
ak-i
aki
ak
i
他動詞(派生形)
ak-a
aka-i
akai
ai
aka
ako
aku
自動詞(基本形)
-
aka-i
ako-i
aku-i
akai
akoi
akui
ak
ai
oi
ui
他動詞(派生形)
aka-a
ako-a
aku-a
akā-si
akoa-si
akua-si
akasi
akosi
akusi
asi
osi
usi
自動詞(基本形)
-
kā-ri
kō-ri
kū-ri
kari
kori
kuri
ka
ko
ku
ri
他動詞(派生形)
kā-sa
kō-sa
kū-sa
kāsa-i
kōsa-i
kūsa-i
kasai
kosai
kusai
sai

 子音語根から四段A型、短母音語根から二段型、長母音語根から四段C型が生成されるのがわかる。

さてでは、四段B型、一段型は、どのように生成されたものだろうか。上記で試さなかったパターンとして i の短母音・長母音パターン aki, kī から生成してみる。

ここでルールを一つ追加する。
  1. -i,-ī を連用形化する場合、もともと i で終わっているので連用形語尾 i は付加しない。
短母音 i の場合、i でも i-i でも結果は同じだが、長母音 ī では意味を持つ。つまり、ī-ri のように子音挿入はされないということだ。

共通語根
変形
出来上がり形
派生語尾 a 付加
連用形語尾 i 付加
短母音化
共通部分
末尾
aki
自動詞(基本形)
-
-
aki
ak
i
他動詞(派生形)
aki-a
akia-si
akasi
asi
自動詞(基本形)
-
-
ki
ki
-
他動詞(派生形)
kī-sa
kīsa-i
kisai
sai

短母音の i 語根から四段B型、長母音の ī 語根から一段型が生成される。

残るは対称型だが、これはおそらく長母音語根なのだろうと思っている。基本形にも子音が挿入されることになる長母音語根の場合、派生形を作らず、自動詞・他動詞ともに基本形を使っても挿入される子音によって自動詞・他動詞の区別が可能であり、そのようにしたのが対称型と考えられる。

共通語根
変形
出来上がり形
派生語尾 a 付加
連用形語尾 i 付加
短母音化
共通部分
末尾
自動詞(基本形)
-
kā-ri
kari
ka
ri
他動詞(基本形)
-
kā-si
kasi
si

以上、まとめると、語根・自動詞他動詞ペアパターン・活用形の関係は下記のようになる。
語根がとりうるパターンから、自他ペアのパターンがすべて導き出される。
「上一段は長母音」というのも冒頭での予想と合致している。

語根
自他ペアパターン
基本形の活用形
子音
四段A型
四段
短母音 i
四段B型
四段
短母音 i 以外
二段型
下二段/上二段
長母音 ī
一段型
上一段
長母音 ī 以外
四段C型、対称型
四段

いかがだろうか。
「長母音・二母音連続はあった」説をとると、てんでばらばらに見えた自動詞・他動詞ペアパターンがすべてきれいに説明出来るのだ。
ちょっとは信じてもよい気持ちになっただろうか。
 

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