自動詞・他動詞ペアのパターン
パターンの類型
日本語には、語形の似た自動詞と他動詞がペアとなっているものが多数ある。ペアの形は、返 (かへ) り / 返 (かへ) し(ラ行四段/サ行四段)、止み/止め (四段/下二段)、など様々あるが、例外的なパターンと思われるものを除けば、下記のパターンがある。
自動詞 | 他動詞 | 他の例 | ||
---|---|---|---|---|
四段 |
空き
|
下二段
|
空け
|
向き/向け、進み/進め
|
下二段
|
取れ
|
四段
|
取り
|
折れ/折り、切れ/切り
|
四段
|
乾き
|
サ行四段
|
乾かし
|
散り/散らし、飛び/飛ばし
|
ラ行四段
|
塞がり
|
四段
|
塞ぎ
|
刺さり/刺し、挟まり/挟み
|
ラ行四段
|
乗り
|
サ行下二段
|
乗せ
|
寄り/寄せ、かぶり/かぶせ
|
ラ行下二段
|
倒れ
|
サ行四段
|
倒し
|
現れ/現し、隠れ/隠し
|
下二段
|
濡れ
|
サ行四段
|
濡らし
|
逃げ/逃がし、生え/生やし
|
上二段
|
落ち
|
落とし
|
降り/降ろし、過ぎ/過ごし
|
|
尽き
|
尽くし
|
|
||
ラ行四段
|
上がり
|
下二段
|
上げ
|
埋まり/埋め、留まり/留め
|
上一段
|
見
|
サ行下二段
|
見せ
|
着/着せ、似/似せ
|
ヤ行下二段
|
見え
|
上一段
|
見
|
煮え/煮
|
ラ行四段
|
残り
|
サ行四段
|
残し
|
通り/通し、移り/移し
|
* 見/見せは、自動詞/他動詞というより、使役動詞なのだが、形態上、自動詞/他動詞のペアと同様と見られるので挙げる。
自動詞と他動詞:「Aが見える / XがA を見る」
動詞と使役動詞: 「XがAを見る / YがX にAを見せる」
これら様々なパターンについて、かつて、日本語に下記のような音韻規則があったと仮定すれば統一的に説明できることを示したい。
- 二母音連続(長母音を含む)はあってもよいが、三母音連続(長母音と短母音の連続を含む)はあってはいけない。
- 形態素同士の結合によって三母音連続が発生する場合は、子音を挿入することによって三母音連続の発生を防ぐ。
各語を連用形として表記すると下表のような感じになる。
なお、以下、このパートにおいては、イエオ段の甲乙類の区別は面倒くさいのでなるべくしない。下二段・上二段の連用形(乙類エ、乙類イ)は、祖形と考えられる ai, oi/ui として表記する。
共通部分 | 自動詞 | 他動詞 | ||
---|---|---|---|---|
ak-
|
四段
|
i
|
下二段
|
ai
|
tor-
|
下二段
|
ai
|
四段
|
i
|
kapak-
|
四段
|
i
|
サ行四段
|
asi
|
pusag-
|
ラ行四段
|
ari
|
四段
|
i
|
no-
|
ラ行四段
|
ri
|
サ行下二段
|
sai
|
tapu-
|
ラ行下二段
|
rai
|
サ行四段
|
si
|
nur-
|
下二段
|
ai
|
サ行四段
|
asi
|
ot-
|
上二段
|
oi
|
サ行四段
|
osi
|
tuk-
|
上二段
|
ui
|
サ行四段
|
usi
|
ag-
|
ラ行四段
|
ari
|
下二段
|
ai
|
mi-
|
上一段
|
-
|
サ行下二段
|
sai
|
mi-
|
ヤ行下二段
|
yai
|
上一段
|
-
|
noko-
|
ラ行四段
|
ri
|
サ行四段
|
si
|
自動詞に r/y の子音が入ることがあり、他動詞に s の子音が入ることがあるということ以外は、自動詞・他動詞で綺麗な鏡像になっているのが見て取れる。
それぞれの自動詞他動詞ペアパターンについて、勝手ながら、仮に下記のように名づけることにしたい。日本語学界で認められている命名が何か別にあるのか、薄学のため知らない。
|
* 上二段の他自二段型は実例がなさそうだ。
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||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
"自他" は、自動詞を基本形として他動詞を派生しているもの、"他自"
はその逆というイメージで命名している。四段/二段/一段は基本形の活用形を示している。
なお、他自一段型について、他とは異なり、r ではなく、y
が現れているが、パターンとして本質的な違いではない。というのは他のパターンでも、自動詞に
r ではなく y が現れることがあるからである。また、他動詞に s ではなく t
が現れることがある。
ex. 絶え tayai / 絶ち tati は、自動詞に y, 他動詞に t
が現れている他自四段C型と考えられる。
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