動詞活用形の発生過程その2
④ 二母音連続の長母音化
- 二母音連続が長母音化。(ai, oi, ui 等、i が後置する場合を除く。二母音連続から二重母音化していたか)
- 二母音連続が長母音化する場合、残る母音の優先度は、u > o > a > i (奥舌 > 前舌 ?)。
- サ変未然形
- サ変未然形 "sia" は、子音が口蓋化 (tʃia ?) していたため長母音化 (sia > sā) に抵抗する。
- 上一段未然形
- 未然形以外では長母音の ī を持つ上一段も i を保持しようとする傾向が強く、ā にはならず、 ia が残存した。(この時点で、まだ、 “mīa” と、未然形でも長母音が残っていた可能性もあるかも知れない)
- カ変未然形
- kia は、子音からの影響により、kā から kō となった。(未然形のオ変格。cf. 聞く/聞こす/聞こゆ等)自動詞他動詞のところでも述べたように、オ変格が生ずるのは、カガハバマ行で多い。
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未然  | 
kaka  | 
āra  | 
idā  | 
okō  | 
tukū  | 
mia  | 
kā > kō  | 
sia  | 
inā  | 
| 
連用  | 
kaki  | 
āri  | 
idai  | 
okoi  | 
tukui  | 
mī  | 
ki  | 
si  | 
ini  | 
| 
終止  | 
kaku  | 
āri  | 
idū  | 
okū  | 
tukū  | 
mīru  | 
kū  | 
sū  | 
inū  | 
| 
連体  | 
kakū  | 
ārū  | 
idūru  | 
okūru  | 
tukūru  | 
mīrū  | 
kūru  | 
sūru  | 
inūru | 
⑤ 命令形の成立
- 連用形に -o を付加し命令形が派生。連用形が二母音連続/長母音終わりのものには、三母音連続を避けるため、子音 y が挿入される。
- カ変・サ変については未然形から派生している。(カ変は、kō-o > kō とする。o の同音連続のため y を挿入せず。上一段の連用形成立時、mī-ri とはならなかったことも思い出される)
| 
命令  | 
kaki-o  | 
āri-o  | 
idai-yo  | 
okoi-yo  | 
tukui-yo  | 
mī-yo  | 
kō-o   > kō  | 
sia-yo  | 
ini-o | 
- カ変・サ変の異例的な未然形使用
- 他の活用では連用形を使うところカ変・サ変では未然形を使う例は、命令形の他に、禁止「な~そ」、過去の助動詞連体形「し」の接続がある。この原因は、以下のように考えたい。
- このシナリオによれば、「来」「す」は、唯一、単音節・短母音の連用形を持っている、ということに着目する。(「往ぬ」は、この時点では、既に2音節化していたとする)
- そして、接辞oを用いた命令語法自体は、④長母音化より前の時代 (来の未然形が kia であった時) に遡る現象と考える。
- 単音節・短母音の連用形に単音節・短母音の接辞 (o/so/si) が後接する際に、語調を整えるために母音 a が挿入されたものと考える。a の挿入により、単音節・短母音の接辞前では連用形が未然形と同形 (ki-a, si-a) になり、④長母音化でも未然形と同じ変化 (kia > kā > kō) を受けた。(*na ki so > *na ki-a so > *na kā so > *na kō so (> na ko so) なこそ, *si-si > *si-a-si (> se-si) せし)
- (o/so/si が短母音だったかどうかはわからない。ただ、これらの前でこの現象が起き、他では起きない説明としてそう仮定する)
- 命令形の成立時期
- 上記のように、命令語法は、④以前にあったものと考える。
- しかし、命令形そのものの成立は、四段などの "io" が io > ō > o にならず、最終的に "e" になっているのを見ると④長母音化が終わってからと考えたい。おそらく、
- ④前に、まず命令 "o" が独立語(終助詞?)扱いの時期があり、その時点で、挿入母音aが発生した。
- 独立語のため、④で、動詞連用形と命令語法の接辞oとの間での長母音化はされない。
- ④完了後に動詞と一語に融合して命令形が成立した。
- y の挿入は、一語に融合する過程でなされたと考える。これが、「こ」で y が挿入されず、「せよ」で挿入されていることにつながっていると考えられる。(来の未然形が kō になってからでないと、「同音連続だから y を挿入しない」とはしづらい)(*ki o > *ki-a o > *kā o > *kō o > *kō-o > *kō (> ko), *si o > *si-a o > *sia o > *sia-yo (> seyo))
- 備考
- kō-o は、o の同音連続であるため y を挿入しなかったが、「長母音終わりは y を挿入する」を規則的に適用した異型もあった。*kō o > *kō-yo > koyo 来よ。
- 「~してくれ」の意味の「こそ」は、慣用句的に使用されたため、④前に動詞と o が結合し、「こせ」ではなく「こそ」となったのではないか。(*kosi o > *kosi-o > *kosō (> koso))
- 「き」の終止形で「せき」とならず「しき」となるのは、”si-ki” の発音で語調を整える場合でも、kが破裂音のため ”sikki” のような感じになって、”si-a-ki” にはならなかったのかも?
 長母音kīだったとか、後で本来の連用形に戻ったとかの説明でもよいが。
⑥ 短母音化(八母音化)
- 長母音が短母音化。二母音連続 ai, oi/ui, ia/io から、乙類エ、乙類イ、甲類エが出来た。
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未然     | 
kaka     | 
ara     | 
ida     | 
oko     | 
tuku     | 
me     | 
ko     | 
se     | 
ina     | 
| 
連用     | 
kaki     | 
ari     | 
idë     | 
okï     | 
tukï     | 
mi     | 
ki     | 
si     | 
ini     | 
| 
終止     | 
kaku     | 
ari     | 
idu     | 
oku     | 
tuku     | 
miru     | 
ku     | 
su     | 
inu     | 
| 
連体     | 
kaku | 
aru | 
iduru | 
okuru | 
tukuru | 
miru | 
kuru | 
suru | 
inuru | 
| 
命令 | 
kake | 
are | 
idëyo | 
okïyo | 
tukïyo | 
miyo | 
ko | 
seyo | 
ine  | 
- もともと「二母音連続/長母音は可だが三母音連続は不可」だったのが、二母音連続/長母音が全て消失したのを経て、「二母音連続/長母音は不可」というルールであったように見えるようになる。
- この時点で、ほぼ、最終的な活用形に近づいているが、已然形がまだないのと、下二段/上二段/上一段の未然形が異なっている。
 
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