2016年4月24日日曜日

動詞活用形の起源についてー自動詞他動詞ペアパターンの分析から (4)

 

イレギュラーなパターンについて

「長母音・二母音連続はあったと仮定すると極めてシンプルな説明が可能な事象」だとは言ったが、そうは言ってもそれなりにイレギュラーなケースはある。それらについても、ある程度、説明をつけておきたい。

y変格、t変格

既に述べたが、挿入される子音が r/s ではなく、y/t になるものがある。どういう条件で発生するのかはよくわからない。
古形と新形なのかも知れないが、r/s と y/t でどちらが古く、どちらが新しいのかもわからない。

オ変格

四段B型、二段型などで、派生形は ar/as になるべきところ or/os になるものがある。
現代語では耳慣れないものも含めて示すと、
除き/除こり、広げ/広ごり、整のひ/整のほり、潤(うる)ひ/潤ほし、狂ひ/狂ほし、積み/積もり、籠め/籠もり、及び/及ぼし、等。
カガハバマ行で多いように思われる(特にハバマが多いか)が、少数ながら、寄せ/寄そり、等も存在するようだ。
カガハバマ行は、イエ段の甲乙類の別があった行でもある。唇音・硬口蓋音子音の性質的に イエ段甲乙の別や、オ変格を引き起こすものがあるのだろう。
なお、ハバマ行では判別がつかないが、カガ行の例を見るとオ変格の o は、乙類のようである。
その一方で、上一段伸び/伸ばしのように、os/us が予想されるところで as になるものもある(ア変格?)。オ変格の正格化が為された時の過剰修正か?「伸び」がもと四段だったか?

複数対応

派生形が派生形をまた作ったり、或いは、派生形から基本形を逆生成したり?のような感じで、複数の動詞のネットワークになっているケースがある。
下記に「分け」類のケースを示す。「分け/分かれ」の対応と捉えるとイレギュラーなパターンに見えてしまう。

他動詞
ペアパターン
自動詞
四段「分き」
他自四段B型
ラ行四段「解かり」
下二「分け」
自二段型
タ行四段「分かち」
対称形 (t変格)
他自四段C型(t変格)
ラ行下二「分かれ」

「分かれ」は、「分き」の受身形由来の可能性もある)

四段「分き」は、現代語では耳慣れないが、百人一首の「みかの原 わきて流るる 泉川」等の「わき」。

偽対応

直接には自動詞・他動詞ペアではないが、語形が類似していて、意味合い上、自動詞・他動詞関係にある場合、イレギュラーなパターンのペアに見えることがある。

たとえば、「閉ぢ/閉ざし」。
上一段ながら os/us ではなく as が現れるイレギュラー(ア変格)な自他二段型とも見えるが、上一段「閉ぢ」と「閉ざし」とでは、ダ行/ザ行で相違しており、直接の自動詞・他動詞ペアではない。「閉ぢ」は、自他同形(扉が閉じる、扉を閉じる)で、「閉ざし」は、「戸鎖し」で、別語であろう。

また、o変格のところで、「潤(うる)ひ/潤ほし」の例を挙げた。現代語の「うるおい/うるおし」の関係を考えるとイレギュラーパターンに見える。「うるほし」とペアになるのは「うるひ(「閏年」などと言う時の「うるふ」)」であって、「うるほひ」は、「うるひ」+継続「ふ」だと思われる。
ちなみに、未然形接続の「ふ」が接続して、「うるはひ」ではなく「うるほひ」になっているので、これは、オ変格の未然形だ。「未然形のオ変格」も、やはりカガハバマ行で多いようだが、尊敬「す」について、知る/知ろす等の例もあるので、ラ行でも発生するようだ。
「未然形のオ変格」も勝手に命名したが、何か一般的な呼び方はあるんですかね。

活用形の変化

現代語で活用形が変化しているためにイレギュラーに見えるものがある。
「上一段満ち/満たし」は、イレギュラー(ア変格)な自他二段型に見えるが、「満つ」は本来、四段(「十に満たない」等と言う)なので、自他四段B型。

不明なもの

なんとも説明をつけ難いものも存在する。例えば 消え/消し。
「もともとは、kiyai / kiyasi の自他二段型であったが、kiyasi が *kiyasi > *kiasi > kesi のように変化した」、という説明は思いついたのだが、残念ながら、「消し」のケは乙類である(kiasi > kesi なら甲類になるはず)。
一方で、連用形だけが確認されている自動詞「消(け乙)」もあるようだ。(「消(け)ぬ」「消(け)安く」等)
連用形が乙類エ段なのであれば、下二段だと思えるが、そうであればその他動詞は、「けし」ではなく「かし」であるはずだ。
下二「け」連用形+サ変「す」の和語サ変動詞が四段化したものだろうか?「消え」もどうやって出来たかよくわからない。

自動詞・他動詞対応パターンの発生のシナリオとして、ほかの説明も不可能ではないと思う。
とはいえ、短母音/長母音の差だと考えれば、とりあえず、極めてすっきり説明出来るので、それに従いたい。

また、個々の動詞の祖形を探るにあたって、自他動詞対応型を参考に出来るかというと、ちょっと疑問に思っている。というのは、後の時代に、パターンに従って、類推的に生成/逆生成した自他動詞ペアも多くあるのではないかと考えるからだ。

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