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寛政暦の月食法の説明の続き。
前回までのところで、食甚・初虧・復円・食既・生光の各時刻の算出、食甚食分・出入時食分の算出まで説明し終わった。今回は、方向角の算出を行う。
方向角とはなにかというと、月輪のうち、かけはじめる箇所の方向、最後までかけ残っている箇所の方向を示すもの。これは、月から見て地球影がある方向であると言える。寛政暦・天保暦の日月食記事においては、天頂方向を「上」、天底方向を「下」とする上下左右十六方位で示される。
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ちなみに、現在の暦要項の日月食記事においては、天頂方向を 0°
とし、反時計回り(左が 90°、下が 180°、右が 270°)の角度で示されている。
貞享暦・宝暦暦においては、かなり簡易的・定性的に求めているため正確なものではないが、概ね黄道北極方向を北とするような東西南北八方位で示されていた。
日月食を見る人にとって見れば、黄道北極方向がどっちかなんてわからない (※)
ので、随分と不親切な記載方法である。
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(※)
赤道北極ならまだ「北極星のあるほう」でわかるだろうが、黄道北極ベースで言われてもねえ。南中ごろだと「北」はだいたい上の方なのかなあ、月出/日出ごろだと「北」は左上の方なのかなあ、なんてイメージがわかるぐらい?
ちなみに、黄道北極は、りゅう座のキャッツアイ星雲 (NGC6543)
付近にあるらしい。知らないですよね、そんなの。
寛政暦・天保暦では、頒暦の日月食記事の記載では「上の方」「上の左」「上と左の間」などの十六方位で記載されている。だいぶわかりやすい記載方法になった。「上の方」のような書きぶりから大雑把な計算なのかと思われるかもしれないが、実際はきっちり定量的に求めていて、かなり大変な計算の結果求められている。方向角は、下記の角度を総計したものとして算出することが出来る。
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赤経高弧交角
(月/地球影が乗っている赤経線方向が、天頂方向となす角)
- 黄道赤経交角
(黄道が、月/地球影が乗っている赤経線方向となす角)
- 黄道交実緯角
(食甚時の月と地球影とを結ぶ方向が、黄道となす角)
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併径交実緯角
(初虧・復円時の月と地球影とを結ぶ方向が、食甚時の月と地球影とを結ぶ方向となす角)
今回は、「1. 赤経高弧交角」「2. 黄道赤経交角」の算出まで。以降は次回に回す。