2020年5月30日土曜日

貞享暦の暦法 (1) 貞享暦の概要、日躔


さて、長々と前置きを続けてきたが、ようやく本題。江戸時代の幕府天文方の暦(貞享暦・宝暦暦・寛政暦・天保暦)の暦法について述べていく。

まずは、貞享暦の節気・土用について。なお、このブログでは、頒暦を作成するにあたって必要な部分だけを記述していく。暦法のうち、五星(木星・火星・土星・金星・水星)や、恒星(星宿)などの頒暦には記載されない部分などは対象にはしない。

暦法の説明に入る前に、簡単に貞享暦採用の経緯について説明しておこう。

貞享暦について

貞享暦改暦を主導したのは、渋川助左衛門春海(しぶかわ すけざえもん  はるみ、安井算哲、保井算哲(やすい さんてつ))(1639~1715) である。幕府・大名家・宮中などで、囲碁の対戦を披露したり、囲碁の指南をしたりする碁方であった。
安井家は、幕府の碁方四家(本因坊家、井上家、林家、安井家)の一であり、算哲は一世安井算哲の長男として二世安井算哲を名乗るが、父の死亡時は幼少であったため、義兄(一世算哲の養子)の安井算知が安井家を継ぐこととなる。
本業の碁方を務め、京・江戸を行き来しながら、囲碁の指南を通じて、水戸藩主徳川光圀や会津藩主松平(保科)正之らとも知遇を得る傍ら、暦学・天文学を学び、北極出地(北極星の仰角)測量による緯度測定なども行っている。


2020年5月23日土曜日

頒暦概観 (5) 日月食記事(貞享暦・宝暦暦)


前回
は、寛政暦・天保暦の日月食記事について書いた。
今回は、それ以前、貞享暦・宝暦暦の日月食記事について説明する。貞享暦の日月食記事は記載方針が未だ定まっていない感じで、正直、整理して説明し切れる自信もないのだが、わからないならわからないなりにわかっているところをちょろちょろと書いていくことになるので、ご容赦願いたい。その貞享暦のカオティックな状況から、少しずつ、寛政暦・天保暦の日月食記事の書きぶりに近づいていくことになる。

2020年5月16日土曜日

頒暦概観 (4) 日月食記事(寛政暦・天保暦)


前回までで、頒暦記載情報のうち、暦月記事・暦日記事・節気記事の説明が終わった。残すは日月食記事のみ。頒暦における日月食記事について話す前に、まず、今の暦(暦要項)で日月食がどんな感じで記載されているのか見てみよう。
下記は、令和三(2021)年の暦要項での、5月26日皆既月食の記事である。

「日本では全国で皆既食が見られる。ただし、北海道西部、東北地方西部、中部地方西部、西日本では月出帯食となる。各地における状況は次のとおりである。 」
地名 月の出 食の始め 皆既の始め 食の最大 皆既の終り 食の終り
中央標準時 位置角 食分 中央標準時 位置角 中央標準時 位置角 中央標準時 位置角 食分 中央標準時 位置角 中央標準時 位置角
那覇 19時07.3分 202度 0.348

20時09.4分 61度 20時18.7分 250度 1.015 20時28.0分 80度 21時52.8分 299度
福岡 19時11.8分 196度 0.412

20時09.4分 53度 20時18.7分 243度 1.015 20時28.0分 72度 21時52.8分 291度
京都 18時52.7分 188度 0.127

20時09.4分 49度 20時18.7分 239度 1.015 20時28.0分 68度 21時52.8分 286度
東京 18時37.5分 ----- ---- 18時44.6分 185度 20時09.4分 47度 20時18.7分 236度 1.015 20時28.0分 66度 21時52.8分 283度
仙台 18時39.5分 ----- ---- 18時44.6分 182度 20時09.4分 44度 20時18.7分 234度 1.015 20時28.0分 63度 21時52.8分 281度
札幌 18時51.4分 179度 0.107

20時09.4分 40度 20時18.7分 230度 1.015 20時28.0分 59度 21時52.8分 278度


2020年5月9日土曜日

頒暦概観 (3) 節気記事


前回は、暦月記事・暦日記事について記載した。今回は、二十四節気が配当されている日に記載される節気記事について概観する。また、併せて、節気記事には節気時刻の記載もあるため、頒暦で使用される時刻表示についても言及する。

2020年5月4日月曜日

頒暦概観 (2) 暦月記事、暦日記事

日別記事

今回は、頒暦の本体部分、日別記事を概観する。

日別記事には、下記の4種類が存在する(名前は、勝手に命名)。
  1. 暦月記事
    • 暦月一日の暦日記事の前(右)に記載される。
    • 記載される内容は、月名(○月)、月の大小、月干支、 月の二十八宿、暦月一日の二十八宿、暦月一日の七曜。
  2. 暦日記事
    • 毎日記載される。
    • 記載される内容は、日名(○日)、日干支、十二直、日の納音、該当日に配当される雑節・選日・暦注下段。
  3. 節気記事
    • 二十四節気が配当される日の暦日記事の後(左)に記載される。
    • 記載される内容は、節気名(××○月節/中)、節気の時刻、日の出/日の入で昼夜をわけたときの昼/夜の時間、明六ツ/暮六ツで昼夜をわけたときの昼/夜の時間。
  4. 日月食記事
    • 日食・月食が発生する日の暦日記事の後(左)に記載される。節気記事とかぶる場合、節気記事の後(左)。
    • 日月食記事での記載内容は、詳しくは別途説明するが、
      • 初虧(かけはじめ)の時刻・方向角
      • 食甚(食の最大)の時刻・方向角・食分
      • 復円(かけおわり)の時刻・方向角
      • 初虧~復円の間に日月の出入りがあるとき(帯食のとき)、出入の時刻・出入時の食分
      といった情報が記載される。「食分」とは、かけの程度、「方向角」とは、日輪・月輪のかけている箇所の方向を示す情報である。
    • 基本的に京都から見たときの食の情報が記載されるが、「西国」・「東国」についての情報が記載されることがある。