2021年5月3日月曜日

寛政暦の日食法 (8) 帯食の食分・方向角、地方食

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前回で、寛政暦の日食法の初虧・復円算出まで完了した。今回は、帯食の算出。あわせて、地方食(京都以外の地点での日食の算出)について。これが、寛政暦の日食法説明の最終回となる。

帯食距弧

推日食帯食法
求帯食距時「以日出或日入分与食甚用時相減、得帯食距時」
日出或は日入分を以って食甚用時と相減じ、帯食距時を得。
求帯食距弧「以一小時分為一率、一小時両経斜距為二率、帯食距時為三率、求得四率為帯食距弧」
一小時分を以って一率と為し、一小時両経斜距、二率と為し、帯食距時、三率と為し、求めて得る四率、帯食距弧と為す。
\[ \begin{align}
\text{帯食距時} &= \text{日出入分} - \text{食甚用時} \\
\text{帯食距弧} &= {\text{一小時両経斜距} \over 1/24_\text{日/時}} \times \text{帯食距時}
\end{align} \]

帯食の時刻(日出入分)と食甚用時の時差から、「距弧」を得る。

帯食白経高弧交角

求帯食赤経高弧交角「以黄赤距緯之余弦為一率、北極高度之正弦為二率、半径為三率、求得四率為赤経高弧交角之余弦、検表得帯食赤経高弧交角。帯出地平為東、帯入地平為西」
黄赤距緯の余弦を以って一率と為し、北極高度の正弦、二率と為し、半径、三率と為し、求めて得る四率、赤経高弧交角の余弦と為し、表を検じ帯食赤経高弧交角を得。地平より帯出するは東と為し、地平に帯入するは西と為す。
求帯食白経高弧交角「以帯食赤経高弧交角与赤白二経交角相加減、得帯食白経高弧交角(法与求食甚用時白経高弧交角同)」
帯食赤経高弧交角を以って赤白二経交角と相加減し、帯食白経高弧交角を得(法、求食甚用時白経高弧交角と同じ)。
\[ \begin{align}
\text{出帯食赤経高弧交角} &= \cos^{-1} {\sin(\text{北極高度}) \over \cos(\text{黄赤距緯})} \\
\text{入帯食赤経高弧交角} &= - \cos^{-1} {\sin(\text{北極高度}) \over \cos(\text{黄赤距緯})} \\
\text{帯食白経高弧交角} &= \text{出/入帯食赤経高弧交角} + \text{赤白二経交角}
\end{align} \]

帯食時の白経高弧交角を求める。そのために、まず、赤経高弧交角を求めるわけで、食甚・初虧復円のときに用いたような計算方法で算出しても別に構わないが、帯食時の太陽は地平線上にあり、天頂からの距離がちょうど 90°。天頂・赤道北極・太陽を結ぶ球面三角形は象限三角形となるので、計算を若干端折ることが出来る。

月食の帯食方向角計算のところで一度説明したが、もう一度ざっくり説明すると、

太陽を A, 天頂を B, 赤道北極を C とする球面象限三角形を考える。∠A, ∠B, ∠C それぞれの対辺 BC, CA, AB の長さをそれぞれ \(a, b, c\) とし、また、太陽の赤緯(黄赤距緯)を \(\delta\), 地点緯度(北極高度)を \(\phi\) とするとき

  • 太陽の天頂からの距離 \(\mathrm{AB} = c = 90°\)
  • 天頂と赤道北極の距離 \(\mathrm{BC} = a = 90° - \phi\)
  • 太陽の赤道北極からの距離 \(\mathrm{CA} = b = 90° - \delta\)

\(c = 90°\) とする球面象限三角形の公式 \(\cos a = \sin b \cos \angle \mathrm{A}\) により、
\[ \begin{align}
\cos a &= \sin b \cos \angle \mathrm{A} \\
\cos \angle \mathrm{A} &= {\cos a \over \sin b} \\
&= {\cos(90° - \phi) \over \sin(90° - \delta)} \\
&= {\sin \phi \over \cos \delta}
\end{align} \]
である。\(\angle \mathrm{A}\) とは、太陽から上方(天頂方向)に向かうベクトル \(\overrightarrow{\mathrm{AB}}\) と、太陽から赤道北極方向に向かうベクトル \(\overrightarrow{\mathrm{AC}}\) とがなす角であって、これがすなわち求めたい赤経高弧交角に他ならない。

このブログの定義では、朝(出帯食)のとき、赤経線は高弧線から左(反時計回り)にずれており正、夕方(入帯食)のときは、右(時計回り)にずれており負である。

帯食又法

又法
求帯食東西差「以半径為一率、帯食白経高弧交角之正弦為二率、地平高下差為三率、求得四率為帯食東西差」
半径を以って一率と為し、帯食白経高弧交角の正弦、二率と為し、地平高下差、三率と為し、求めて得る四率、帯食東西差と為す。
求帯食南北差「以半径為一率、帯食白経高弧交角之余弦為二率、地平高下差為三率、求得四率為帯食南北差」
半径を以って一率と為し、帯食白経高弧交角の余弦、二率と為し、地平高下差、三率と為し、求めて得る四率、帯食南北差と為す。
求帯食視距弧「以帯食東西差与帯食距弧相減、得帯食視距弧」
帯食東西差を以って帯食距弧と相減じ、帯食視距弧を得。
求帯食視緯「以帯食南北差与食甚実緯相加減、得帯食視緯(法与求食甚用時視緯同)」
帯食南北差を以って食甚実緯と相加減し、帯食視緯を得(法、求食甚用時視緯と同じ)
求帯食両心視相距「以帯食視距弧為股、帯食視緯為勾、求得弦為帯食両心視相距」
帯食視距弧を以って股と為し、帯食視緯、勾と為し、求めて得る弦、帯食両心視相距と為す。
\[ \begin{align}
\text{帯食東西差} &= \text{地平高下差} \times \sin(\text{帯食白経高弧交角}) \\
\text{帯食南北差} &= \text{地平高下差} \times \cos(\text{帯食白経高弧交角}) \\
\text{帯食視距弧} &= \text{帯食東西差} + \text{帯食距弧} \\
\text{帯食視緯} &= \text{帯食南北差} + \text{食甚実緯} \\
\text{帯食両心視相距} &= \sqrt{(\text{帯食視距弧})^2 + (\text{帯食視緯})^2}
\end{align} \]

帯食時の食分や方向角を求めるために、視差計算を行う必要がある。食甚・初虧・復円計算のとき、「又法」と「本法」があったわけだが、帯食計算についても、両パターンの計算式が示されている。まずは「又法」だが、特段、食甚・初虧・復円のときと変わるわけではない。

唯一変わるのは、「高下差」で、 食甚・初虧・復円のときは、太陽の天頂からの距離(太陽距天頂)によって算出していたが、太陽が地平線上にある帯食時は、太陽距天頂は 90° に決まっており、「地平高下差」をそのまま高下差として用いることができること。それ以外は、特にいうことはない。

一点、気になるのは「求帯食視距弧」において、「帯食東西差を以って帯食距弧と相減じ、帯食視距弧を得」となっていること。\(\text{帯食視距弧} = \text{帯食東西差} + \text{帯食距弧}\) であるはずだから、「相減じ」というのは、東西差と距弧が異符号である前提で記述されていることになる。が、そうなるんだっけ? というのは疑問。例えば、食甚用時より後の日出、食甚用時より前の日入などの場合、同符号になりそうな気が。

確かに、地平高下差は 1° 弱ほどであるため、白経高弧交角がいくらかにもよるが、帯食東西差は併径(0.52° 程度)より大きくなる可能性が高い。とすると、東西差と距弧が同符号だと視距弧だけでも併径より大きくなるだろうから、当然、視相距も併径より大きくなるであろう。とすると、帯食とならないだろう。

しかし、帯食となるかの判定が事前になされていて、帯食とならないパターンはこの計算に落ちてこないのならともかく、そうではないので、この計算では、東西差と距弧が異符号である前提で計算しちゃいけないのじゃないだろうか。

帯食本法

求帯食対距弧角「以食甚実緯為一率、帯食距弧為二率、半径為三率、求得四率為対実距弧角之正切線、検表得帯食対距弧角(若無食甚実緯、則無帯食対距弧角、即以帯食距弧為帯食両心実相距)」
食甚実緯を以って一率と為し、帯食距弧、二率と為し、半径、三率と為し、求めて得る四率、対実距弧角の正切線と為し、表を検じ帯食対距弧角を得(もし食甚実緯無ければ、則ち帯食対距弧角無く、即ち帯食距弧を以って帯食両心実相距と為す)。
求帯食両心実相距「以帯食対距弧角之正弦為一率、帯食距弧為二率、半径為三率、求得四率為帯食両心実相距」
帯食対距弧角の正弦を以って一率と為し、帯食距弧、二率と為し、半径、三率と為し、求めて得る四率、帯食両心実相距と為す。
求帯食対両心視相距角「以帯食白経高弧交角与帯食対距弧角相加減(緯北減、緯南加又与半周相減。若無帯食対距弧角、則以帯食白経高弧交角与九十度相減、余為帯食対両心視相距角)、得帯食対両心視相距角(若白経高弧交角過九十度、則緯南如緯北、緯北如緯南)」
帯食白経高弧交角を以って帯食対距弧角と相加減し(緯北は減じ、緯南は加へまた半周と相減ず。もし帯食対距弧角無ければ、則ち帯食白経高弧交角を以って九十度と相減じ、余り帯食対両心視相距角と為す)、帯食対両心視相距角を得(もし白経高弧交角、九十度を過ぐれば、則ち緯南は緯北の如く、緯北は緯南の如し)。
求帯食対両心実相距角「以帯食両心実相距為一辺、地平高下差為二辺(帯食太陽在地平故、用地平高下差)、帯食対両心視相距角為所夾之角、用切線分外角法、求得半較角、与半外角相加減(両心実相距、大於高下差為加、小於高下差為減)、得帯食対両心実相距角」
帯食両心実相距を以って一辺と為し、地平高下差、二辺と為し(帯食太陽は地平に在る故、地平高下差を用う)、帯食対両心視相距角、夾むところの角と為し、切線分外角法を用ゐ、求めて得る半較角、半外角と相加減し(両心実相距、高下差より大なれば加と為し、高下差より小なれば減と為す)、帯食対両心実相距角を得。
求帯食両心視相距「以帯食対両心実相距角之正弦為一率、帯食両心実相距為二率、帯食対両心視相距角之正弦為三率、求得四率為帯食両心視相距」
帯食対両心実相距角の正弦を以って一率と為し、帯食両心実相距、二率と為し、帯食対両心視相距角の正弦、三率と為し、求めて得る四率、帯食両心視相距と為す。
\[ \begin{align}
\text{帯食対距弧角} &= \tan^{-1} {\text{帯食距弧} \over \text{食甚実緯}} \\
\text{帯食両心実相距} &= \sqrt{(\text{食甚実緯})^2 + (\text{帯食距弧})^2} \\
\text{帯食対両心視相距角} &= \text{白経高弧交角} + \text{対距弧角} \\
\text{対両心実相距角} &= \text{切線分外角法} \left( \begin{aligned}
\text{小辺} &= \text{帯食両心実相距} \\
\text{大辺} &= \text{地平高下差} \\
\text{夾角} &= \text{帯食対両心視相距角} \\
\end{aligned} \right) \\
\text{帯食両心視相距} &= {\text{帯食両心実相距} \over \sin(\text{帯食対両心実相距角})} \times \sin(\text{帯食対両心視相距角}) \\
\end{align} \]
次に「本法」の場合。これも食甚・初虧・復円の本法とほぼ同じで、また、やはり、高下差は地平高下差をそのまま用いることが出来る。

帯食食分

求帯食分秒「以太陽実半径倍之、得太陽全径為一率、十分為二率、併径内減帯食両心視相距、余為三率、求得四率為帯食分秒」
太陽実半径を以ってこれを倍し、太陽全径を得、一率と為し、十分、二率と為し、併径、帯食両心視相距を内減し、余り三率と為し、求めて得る四率、帯食分秒と為す。
\[ \text{帯食分秒} = {\text{併径} - \text{帯食両心視相距} \over 2 \times \text{太陽実半径}} \times 10_\text{分} \]

帯食時の視相距から、食分を得る。食甚食分の計算と変わるところはない。

帯食の方向角

求帯食方位「帯食在食甚前者、用初虧方位法求之。帯食在食甚後者、用復円方位法求之」
帯食、食甚の前に在れば、初虧方位法を用ゐこれを求む。帯食、食甚の後に在れば、復円方位法を用ゐこれを求む。
《又法の場合》
\[ \begin{align}
\text{帯食視相距白経交角} &= \tan^{-1} {\text{帯食視距弧} \over \text{帯食視緯}} \\
\text{帯食定交角} &= \text{帯食白経高弧交角} + \text{帯食視相距白経交角}
\end{align} \]
《本法の場合》
\[ \text{帯食定交角} = 180° - \text{帯食対実相距角} \]

方向角の算出も、初虧・復円のときと同様に計算すればよい。

「又法」の初虧・復円時に「併径白経交角」と呼んでいた値は、「太陽から見て視月がある方向の、白経線(太陽から見て赤道北極がある方向)からの離角」である。初虧・復円時に、太陽と視月との間の距離は併径であるから、太陽と視月を結ぶ線分のことも「併径」と呼び、その線分の白経線からの傾きを「併径白経交角」と呼んでいたわけである。

帯食時には、太陽と視月との距離は併径ではないから、「併径白経交角」と呼ぶわけにはいかない。一般に、太陽と視月との距離は「視相距」であるから、「視相距白経交角」と呼ぶことにしておく。

食甚が見えない食における初虧・復円

求帯食初虧復円時刻「帯食不見食甚者、以帯食視緯為勾、併径為弦、求得股為初虧復円視距弧、与帯食視距弧相加減(帯食東西差、小於帯食距弧則加、大於帯食距弧則減)、得帯食初虧復円実距弧。以一小時両経斜距為一率、一小時分為二率、帯食初虧復円実距弧為三率、求得四率為帯食初虧復円距時。帯出地平者、与日出分相加、得復円用時。帯入地平者、与日入分相減、得初虧用時。按初虧復円法求之、得初虧復円時刻」
帯食、食甚を見ざれば、帯食視緯を以って勾と為し、併径、弦と為し、求めて得る股、初虧復円視距弧と為し、帯食視距弧と相加減し(帯食東西差、帯食距弧より小なれば則ち加へ、帯食距弧より大なれば則ち減ず)、帯食初虧復円実距弧を得。一小時両経斜距を以って一率と為し、一小時分、二率と為し、帯食初虧復円実距弧、三率と為し、求めて得る四率、帯食初虧復円距時と為す。地平より帯出すれば、日出分と相加へ、復円用時を得。地平に帯入すれば、日入分と相減じ、初虧用時を得。初虧復円法を按じこれを求め、初虧復円時刻を得。
《出帯のとき》
\[ \begin{align}
\text{帯食復円視距弧} &= \sqrt{(\text{併径})^2 - (\text{帯食視緯})^2} \\
\text{帯食復円実距弧} &= \text{帯食復円視距弧} - \text{帯食視距弧} \\
\text{帯食復円距時} &= {\text{帯食復円実距弧} \over \text{一小時両経斜距} \times 24_\text{時/日}} \\
\text{復円用時} &= \text{日出分} + \text{帯食復円距時}
\end{align} \]
《入帯のとき》
\[ \begin{align}
\text{帯食初虧視距弧} &= - \sqrt{(\text{併径})^2 - (\text{帯食視緯})^2} \\
\text{帯食初虧実距弧} &= \text{帯食初虧視距弧} - \text{帯食視距弧} \\
\text{帯食初虧距時} &= {\text{帯食初虧実距弧} \over \text{一小時両経斜距} \times 24_\text{時/日}} \\
\text{初虧用時} &= \text{日入分} + \text{帯食初虧距時}
\end{align} \]

これはなにかというと、初虧・復円の又法においては、初虧・復円用時を食甚定真時を基準に定め、そこから初虧・復円の定真時を求めていくような計算になっていたわけだが、食甚が見えない食の場合、食甚時刻・食甚食分・食甚方向角の情報を記載する必要はなく、食甚定真時を得る必要はないわけで、初虧・復円を求めるだけのために食甚定真時を求めるのはばかばかしいよね、なので、食甚定真時からではなく、帯食時(日出入時)を基準に初虧・復円用時を定めて、そこから初虧・復円の定真時を求めていけばいいんじゃない?という計算方法である。

  • しかし、 食甚定真時を求めないことには、本当に食甚が見えない食なのかどうか、厳密にはわからないのでは……

出帯食のときは復円を、入帯食のときは初虧を求める必要がある。初虧・復円用時は漸近計算の出発点であり、おおざっぱでいいわけだが、ここで、帯食時と初虧・復円時とで、視差の大きさ・方向は変わらず、東西差・南北差は同じと考えることにしよう。とすると、視緯(南北差 + 食甚実緯)は、 帯食時と初虧・復円時とで不変。視距弧(東西差 + 実距弧)は、東西差は不変だが、実距弧は時刻により変化する。

初虧・復円時の視相距は併径なので、\((\text{視距弧})^2 + (\text{視緯})^2 = (\text{併径})^2\) となるような時刻を求めれば、初虧・復円時刻に近い時刻が得られるはずである。\((\text{視距弧})^2 =  (\text{併径})^2 - (\text{視緯})^2 \) であるが、視距弧は時刻経過に伴い、西から東へ(当ブログの定義ではマイナスからプラスへ)変化していくので、初虧の視距弧はマイナス、復円の視距弧はプラスであろう。

そして、上記で求めた初虧・復円の視距弧と、帯食時の視距弧の差分を取れば、東西差は不変なので、実距弧の差分でもあるはずである。実距弧の差分を、実月の角速度(一小時両経斜距)で割ってやれば、初虧・復円時刻と帯食時(日出入分)との時刻差が求められる。

よって、これを日出入分に加減してやれば、おおざっぱに初虧・復円時刻が求められる。これを出発点に、以降、漸近計算をして、初虧・復円定真時を求めればよい。

……ということなのだが、食甚が見えようが見えまいが、ふつうに食甚定真時を求めて計算すればいいじゃないと思うので、私はこの計算式を採用していない。

条文に書いてある計算と、式で記載したものとがストレートにイコールではないので、若干補足。

「……初虧復円視距弧と為し、帯食視距弧と相加減し(帯食東西差、帯食距弧より小なれば則ち加へ、帯食距弧より大なれば則ち減ず) ……」

上の方で述べたように、帯食時の東西差と実距弧は異符号である前提で計算しているようだ。出帯食時の東西差は東(正)だから、実距弧は西(負)ということなのだろう。東西差の絶対値の方が小なら出帯食時の視距弧は負、大なら正のはず。そして、出帯食時は復円を求めたいので、「初虧復円視距弧」は復円の視距弧であり、それは東(正)。それに、帯食時の視距弧が負なら加え正なら減じているので、実際は、帯食時の視距弧と、復円視距弧との差を求めているわけである。

そして、帯食であるということは、帯食時の視相距は併径より小さいはずで、とすれば、帯食時の視距弧の絶対値は、復円視距弧の絶対値より小さいはず。復円視距弧がより絶対値が大きい正の値だから、\(\text{帯食復円実距弧} = \text{帯食復円視距弧} - \text{帯食視距弧}\) は正であり、これを一小時両経斜距で割り返した帯食復円距時も正。日出分に足してやれば、帯食時(日出分)後の復円時刻(の一次近似)が得られる。

同様に、入帯食時の東西差は西(負)で、実距弧は東(正)。東西差の絶対値の方が小なら入帯食時の視距弧は正、大なら負のはず。入帯食時は初虧を求めたいので、「初虧復円視距弧」は初虧の視距弧であり、それは西(負)。それに、帯食時の視距弧が正なら加え負なら減じているので、やはり、帯食時の視距弧と初虧視距弧との差を求めている。

帯食時の視距弧の絶対値は、初虧視距弧の絶対値より小さいはず。そして、初虧視距弧がより絶対値が大きい負の値だから、帯食復円実距弧は負であり、これを一小時両経斜距で割り返した帯食復円距時も負。日入分に足してやれば(絶対値を引いてやれば)、帯食時(日入分)より前の初虧時刻(の一次近似)が得られる。

なお、この計算方法は、又法の場合のみの記述であって、本法の場合の記述はない。そもそも、本法の初虧・復円前設時の求め方は指定されていないので、食甚定真時から求めると決まってもいない。

地方食

推各省日食法
求各省日食時刻分秒方位「置京師食甚用時、按各省東西偏度所変之時分加減之(偏度時分、見月食法)、得各省食甚用時。以各省北極高度、依京師推日食法算之、得各省日食時刻分秒方位」
京師食甚用時を置き、各省の東西偏度を按じ変ずるところの時分、これに加減し(偏度時分、月食法を見よ)、各省食甚用時を得。各省の北極高度を以って、京師推日食法に依りこれを算し、各省の日食時刻・分秒・方位を得。

 例によって、暦法新書(寛政)には地方食の算出方法が記載されていないので、そのもととなった暦象考成後編における記述を見てみよう。

要するに、食甚用時を各地の時差(経度差に基づく)によってずらす(京都より東であれば未来方向にずれ、西であれば過去方向にずれる)。そして、以降の計算を行う。食甚用時がずれたことにより、その他の時刻もともずれでずれていく。地点緯度(北極高度)が必要な箇所では、それぞれの地の地点緯度を用いる。

月食の場合(食分密法のことをとりあえず度外視すると)

  • 初虧・食甚・復円時刻が時差に基づいてずれる
    時差に基づいてずれるわけではない帯食時(出入時)と、初虧・食甚・復円時との前後関係が変わり、帯食の見え方が変わる
  • 方向角
  • 帯食時(出入時)が地点緯度によって変わる

ぐらいだったが、日食の場合、視差が変わってくる(経度差によって初虧・食甚・復円時刻がずれることにより太陽距午赤道度が変わり、また、北極高度の違いも影響してくる) ので、すべての値が変化しうる。


以上で、長々と説明してきた寛政暦の日食法の解説を終わる。

次回は、頒暦に見える日月食記事との突合。


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[参考文献]

吉田 秀升, 山路 徳風, 高橋 至時, (校正) 土御門 泰栄「暦法新書」(寛政) 国立公文書館デジタルアーカイブ蔵 

渋川 景佑「寛政暦書」 国立公文書館デジタルアーカイブ蔵

戴 進賢 (Ignaz Kögler)「暦象考成後編」国立天文台三鷹図書館デジタル資料

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