前回までは、天保暦の月食法について説明していた。今回からは、天保暦の日食法の説明に入る。天保暦の日食法は「新法暦書
巻四」に記載されている。
寛政暦と比べたとき、天保暦の日食法が異なる最大のポイントは、地球が真球ではなく、赤道方向に膨らんだ回転楕円体であることが考慮されているところである。
月食は、地球の影が月面に落ちる現象であり、月面に落ちた地球の影は、月が見えている限り、地球上のどこに観測者がいても同様に観測することができる。一方、日食は、月の影が地球に落ちる現象であり、地球に落ちた月の影を地球表面にいる観測者は見ることが出来ず、ただその影のなかにいる観測者のみが、日食という事象として影が落ちていることを感じることができる。
よって、日食の計算をするにあたっては、太陽の位置・月の位置だけでなく、観測者の位置も重要である。寛政暦の日食法においては、観測者の位置により変わる月の見える方向のずれ、すなわち、月の視差を算出することにより、これが計算されていたのであった。しかし、この計算は暗黙裡に地球が真球であることを前提にしたものである。 「北緯 35°.01 にいる観測者が、真太陽時○○時○○分にいる場所」を考えるとき、地球が真球である場合と、回転楕円体である場合とで、若干ずれがある。天保暦の日食法では、これを考慮している。
とはいえ、今回説明するのは、食甚用時(観測者の位置による視差を考慮しない食甚時刻)の算出まで。まだ今回は、視差を考慮していないので、上記の話には至らない。