2017年5月14日日曜日

御木のさ小橋

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上代日本語においては区別を消失していた ui 由来の乙類イ段と əi 由来の乙類イ段が、琉球語では区別されているという説を以前紹介した

日本語では ui 由来/əi 由来双方の乙類イ段が甲類イ段と合流してイ段になっているのに対し、琉球語では ui 由来の乙類イ段はイ段と合流し、əi 由来の乙類イ段はエ段と合流する。
さらに、現代首里方言ではエ段がイ段と合流してしまうため、結局は差がなくなってしまい全部 i になってしまうのだが、イ段/エ段は子音の破擦化の有無に痕跡を残しているため、区別がつく場合がある。(i/ɪ など、母音上の区別を残している方言もある)

2017年4月23日日曜日

奈可中次下

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このブログでは、上代日本語について、動詞を中心に、素人の手慰みで研究しているわけだが、資料として、万葉集、殊に上代東国歌謡を参照することが多い。
基本的には、語例・用例を拾ってくるために見ているわけなので、歌の意味自体は興味の範疇外であり、参照するのも、主に万葉仮名表記の原文で、現代語訳とか解説とかはあまり見ない。
なのだが、そうは言っても、語の同定のためには、歌の解釈もせざるを得ないので、一応歌の意味は考える。考えてわからないときは、解説等に頼ったりもする。

以前書いたのだが、小学館の日本国語大辞典の参照のため、Japan Knowledge のサイトに加入していて、そこで小学館の日本古典文学全集(以下、全集)を参照できるので、その万葉集の巻は、ちょこちょこ活用させてもらっている。

そうして訳・解説を読んでみれば、ああなるほどと思うところもよくある。
例えば、「寄そる」という動詞がちょいちょい出てくるのだが、いまいち意味がぴんと来ていなかった。

  • 14/3512「一嶺ろに 言はるものから 青嶺ろに いさよふ雲の 寄そり妻はも」
この「寄そり妻」は、「噂だけの妻」という意味だということだ。
自動詞「寄り」は「恋人/夫婦になる」、他動詞「寄し」は、「(誰かを)恋人/夫婦にする」で、「寄し」を再自動詞化した「寄そり」は、「寄せられる」「(誰か/人の噂等)によって、恋人/夫婦であるということにされる」の意味なのである。
上記の 14/3512 は、「一つの峰だと(一緒に寝ていると)人の噂では言われるものの、青峰にいざよう雲のごとく、『青嶺ろ/吾を寝ろ。一緒に寝よう』というとためらう噂だけの妻は…」という掛詞ばりばりの歌なわけです。なーるほどですね。

とは言え、示されている解釈に納得できないなあと思うこともそれなりにあるわけで。
以下、上代東国歌謡の解釈について思うことをランダムに書き連ねる。

2017年4月1日土曜日

上代中央語と東国語の別れ路

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前回の投稿から随分と間が空いた。正直、考えに行き詰まった結果、ちょっと興味を失いかけていたので。
日を置いてみて考え直した結果、ちょっと思いついたこともあるので、久しぶりに書いてみる。

上代日本語の動詞活用形の起源 Ver. 2 の最終ステップ「Step 9: 第2次高母音化と、中央語/東国語/琉球語の分離」において、下表のような変化が起きたとした。

音形eaCjəλɨiɨɪəe
中央語> ia > e> iə > e> Cey> ɨ (イ乙)> ɨ (イ乙)əe (エ乙)
東国語> ar> e (エ甲)
琉球語> ia > er? > i> ɪ > e > e

しかし、これは、何とも恣意的で気持悪い。この辺をなんとかしたいというのが今回の話題。

2016年10月23日日曜日

i と e をめぐる諸問題

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前回、「あしひきの」考: 下二段・上二段両用活用に見える動詞についてにおいて、動詞の連用形は -e がついた形式で、転成名詞形は -i がついた形式というように、元来は別形だったのでは? という仮説を述べた。

正直、自分でも突拍子もない奇説だと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。

2016年10月8日土曜日

「あしひきの」考: 下二段・上二段両用活用に見える動詞について

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11/2802或本歌曰「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む(足日木乃 山鳥之尾乃 四垂尾乃 長永夜乎 一鴨将宿)」

小倉百人一首にも柿本人麻呂作として収録されている有名な歌。

「あしひきの」は「山」等にかかる枕詞だが、びっくりすることに「あしひきの」の「き」は乙類キ(足日乃)である。

一字一音式に書かれたものを見ても

15/3655「今よりは 秋づきぬらし あしひきの(安思比奇能) 山松蔭に ひぐらし鳴きぬ」

で、やはり乙類キ。

2016年9月19日月曜日

上代日本語の動詞活用形の起源 Ver. 2

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上代日本語の動詞活用形と自動詞他動詞ペアパターンの起源の仮説について、当初案以降に考察したこと(上代東国方言や、母音調和(有坂法則)との関係について)を含めて考えた結果、今、頭のなかにある仮説の姿を、一度まとめておきたい。
当初案とぱっと見はかなり変えたところもあるけれども、大枠は変わっていない。

  • 仮説のうち、骨子となる部分は下記であって、その部分は変わっていないわけである。それ以外はまあ枝葉末節の微調整。
    • 自動詞他動詞ペアパターンのうち、四段A型(空き/空け -i/-ë、焼け/焼き -ë/-i)になるか、四段B型(靡き/靡かし -i/-asi、放(さ)き/放かり -ari/-i)・二段型(明け/明かし -ë/-asi、上がり/上げ -ari/-ë)になるか、四段C型(かぶり/かぶせ -ri/-së、越し/越え -yë/-si)・一段型(着/着せ φ/-së、見え/見 -yë/φ)になるかは、-○-a-○-i の、aの前後の○のどちらに子音が入るか(どちらにも入らないか)によっている。それがどう決まるのかは、語尾 -○-a-○-i がつく語幹部がどういう形だったか(子音終わりか短母音終わりか長母音終わりか等)による。
    • 子音の挿入箇所は、三母音連続を回避するように決定されるように見える。こうなった具体的な経緯としては、(1) 二母音連続の後に母音を付加する場合、子音が挿入されたか、(2) 一律挿入された子音が、短母音間では消失したか、等が考えられる。
    • 終止形・連体形に靡のルがつくかどうか、命令形が甲類エ段になるか/連用形+ヨになるかも、上記と理由を共有する。
    • 下二段・上二段・上一段の未然形は連用形と同形だが、これは二次的にそうなったのであって、本来は自動詞他動詞派生(明け/明かし(-a)、尽き/尽くし(-u)、起き/起こし(-ə)) や、シク活用形容詞派生(痩せ/やさしく(-a)、なぎ/なぐしく(-u)、老い/老よしく(-ə)) などと同形であった。
    • カ変・サ変の命令形(こ、せよ)が、未然形(こ、せ)接続風なのは、短母音単音節の連用形に短母音単音節の接辞を付加する場合、間に母音が挿入されたことに由来する。カ変・サ変において、禁止形(な~そ)、過去助動詞終止形・連体形(き、し)の接続が未然形接続になっているのも同様の理由である。
    • 已然形は、「連体形+得(え)」に由来する。「する得(え)ば」→「すれば」。「するコトヲ得ば」の意味。過去助動詞已然形「しか」は、「ありしく得(あ)ば」→「ありしかば」で、ク語法「しく」+「得の未然形が連用形同形になる前の語形、得(あ)」に由来している。
  •  以下は、当初案以降に追加した要素
    • 二段動詞の本来の未然形において、陽母音語幹(-a/-u) と陰母音語幹(-ə) とで付いた母音が異なっているのは母音調和の痕跡。四段でも本来一律 -a ではなく、陽母音語幹・陰母音語幹で -a/-ə をつけ分けていたと考える。
    • 上代東国方言では、四段動詞で「終止形: ウ段、連体形: 甲類オ段」になっているが、これは、連体形は終止形に余分の音節がくっついた形に起源(なので、二段動詞などで靡きのルがつく)していることの結果として、四段動詞で「終止形: 短母音、連体形: 長母音」だったことに由来している。
    • 二段動詞の終止形が全てウ段であること、未然形・派生語尾が -a/-u/-ə のような形になること、「短母音:ウ段、長母音:甲類オ段」になることで見られるように、 au > u, əu > u, ua > u, ia > a, uu > o のような母音融合をしているように見える。
      これは、中高母音上昇(e > i, o > u)、二重母音の前項後項で高さの差が大きい時の高さ調整、二重母音の逆行同化等の一連の母音変化過程を想定することで説明可能である。
      (当初案では u > ə > a > i の優先度で残る母音が決定されるとしていた)


当初案の内容や、その後考察したことの内容については、 [総目次] から適宜参照し、一読された上で、以下に読み進められたい。

2016年9月10日土曜日

動詞からのシク活用形容詞派生について

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四段B型・二段型自動詞他動詞派生のオ変格、未然形のオ変格について以前論じたことを整理し、未然形派生・自動詞他動詞派生(四段B型・二段型)の基本形を示すと以下のとおりになる。

表1: 動詞派生形式の基本形
活用種類陽母音語幹陰母音語幹
四段活用-a (ウ段・唇音が続く等、特定の環境では -ô: 甲類オ変格) -o
下二段活用*-aa > -a *-oo > -o
上二段活用*-ua > (高さ調整)*-uô > (逆行同化)*-ôô
> (中高母音の高化)*-uu > -u
*-oo > -o

すなわち、四段は陽母音語幹 -a / 陰母音語幹 -o、下二段は本来は -aa/-oo だが短母音化し -a / -o、上二段は -uu/-oo が短母音化し -u / -o。
  • なお、現在の下二段・上二段の未然形はこうはなっていない。連用形と同形になっている。
    が、本編の動詞活用形起源の仮説において述べたように、それは二次的にそうなったのであって、本来は未然形も上記の形態だったと考えている。

概ね、上記と同様の形式になっているように見える動詞からのシク活用形容詞派生について考察したい。