前回までのところで、天保暦の日躔(太陽の運行)の説明が完了。今回からは月離(月の運行)の説明となる。今回は、太陰黄道実行(月の真黄経)を求めていくが、最後まで行くとあまりに長大になってしまうので途中まで。
太陰平行
[新法暦書巻二 推月離用数]
太陰毎日平行一十三度一十七分六十三秒九十六微七十九繊八十二忽
太陰平行差二十五繊
太陰平行応三宮一十一度五十零分七十七秒六十七微
[新法暦書巻二 推月離法]
求太陰平行加差「自元禄十三年庚辰距所求之年共若干年、減一年、為距年。自乗之、以太陰平行差乗之、得太陰平行加差」
元禄十三年庚辰 [1700年] より求むるところの年を距つる共せて若干年、一年を減じ、距年と為す。これを自乗し、太陰平行差を以ってこれを乗じ、太陰平行加差を得。
求太陰年根「以積日与太陰毎日平行相乗、得数満周天去之、以宮法収之、為積日行。加太陰平行応及太陰平行加差(満十二宮去之)得太陰年根。上考往古、則置太陰平行応、加太陰平行加差、減積日行(不足減者、加十二宮減之)、得太陰年根」
積日を以って太陰毎日平行と相乗じ、得る数、満周天これを去き、宮法を以ってこれを収め、積日行と為す。太陰平行応及び太陰平行加差を加へ(満十二宮これを去く)太陰年根を得。上って往古を考ふるは、則ち太陰平行応を置き、太陰平行加差を加へ、積日行を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、太陰年根を得。
求太陰平行「以所求日数与太陰毎日平行相乗、得数満周天去之、以宮法収之、与太陰年根相加(満十二宮去之)、加減太陽一均、得太陰平行」
求むるところの日数を以って太陰毎日平行と相乗じ、得る数、満周天これを去き、宮法を以ってこれを収め、太陰年根と相加へ(満十二宮これを去く)、太陽一均を加減し、太陰平行を得。
\[ \begin{align}
\text{太陰平行応} &= 101°.507767 \\
\text{太陰毎日平行} &= 13°.1763967982 \\
\text{太陰平行差} &= 0°.00000025 \\
\text{太陰平行加差} &= \text{太陰平行差} \times (\text{積年} + 142)^2 \\
&(\text{※ 天保暦暦元年 1842年} - \text{太陰平行加差計算元 1700年} = 142 年) \\
\text{太陰平行年根} &= \text{太陰平行応} + \text{太陰毎日平行} \times \text{積日} + \text{太陰平行加差} \\
\text{太陰平行} &= \text{太陰年根} + \text{太陰毎日平行} \times \text{日数} + \text{太陽一均}
\end{align} \]
太陰平行(月の平均黄経)を計算する。
太陽四均の計算に必要であるため、日躔のところで概略説明済である。月の公転平均角速度の経年増加項「太陰平行加差」を加えている。また、「太陽一均」(章動)は、「太陽」と言われているが太陽に限らずすべての黄経に加算されるべき値であるため、太陰平行にも加算されている。
最高平行(月の遠地点の平均黄経)、正交平行(月の昇交点の平均黄経)
最高毎日平行一十一分一十四秒零八微二十八繊二十忽
正交毎日平行五分二十九秒五十五微一十六繊七十七忽
最高応一宮一十三度二十四分二十零秒五十九微
正交応十零宮二十八度五十五分七十六秒二十五微
求積日「置中積分、加気応分(不用日)、減天正冬至分(亦不用日)、得積日。上考往古、則置中積分、減気応分、加天正冬至分、得積日」
中積分を置き、気応分を加へ(日を用ゐず)、天正冬至分を減じ(また日を用ゐず)、積日を得。上って往古を考ふるは、則ち中積分を置き、気応分を減じ、天正冬至分を加へ、積日を得。
求最高年根「以積日与最高毎日平行相乗、得数満周天去之、以宮法収之、為積日行。加最高応(満十二宮去之)、得最高年根。上考往古、則置最高応、減積日行(不足減者、加十二宮減之)、得最高年根」
積日を以って最高毎日平行と相乗じ、得る数、満周天これを去き、宮法を以ってこれを収め、積日行と為す。最高応を加へ(満十二宮これを去く)、最高年根を得。上って往古を考ふるは、則ち最高応を置き、積日行を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、最高年根を得。
求正交年根「以積日与正交毎日平行相乗、得数満周天去之、以宮法収之、為積日行。加正交応(満十二宮去之)、得正交年根。上考往古、則置正交応、減積日行(不足減者、加十二宮減之)、得正交年根」
積日を以って正交毎日平行と相乗じ、得る数、満周天これを去き、宮法を以ってこれを収め、積日行と為す。正交応を加へ(満十二宮これを去く)、正交年根を得。上って往古を考ふるは、則ち正交応を置き、積日行を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、正交年根を得。
求最高平行「以所求日数与最高毎日平行相乗、得数以宮法収之、与最高年根相加(満十二宮去之)、加減太陽一均、得最高平行」
求むるところの日数を以って最高毎日平行と相乗じ、得る数、宮法を以ってこれを収め、最高年根と相加へ(満十二宮これを去く)、太陽一均を加減し、最高平行を得。
求正交平行「以所求日数与正交毎日平行相乗、得数与正交年根相加(満十二宮去之)、得正交平行」
求むるところの日数を以って正交毎日平行と相乗じ、得る数、正交年根と相加へ(満十二宮これを去く)、正交平行を得。
\[ \begin{align}
\text{最高毎日平行} &= 0°.1114082820 \\
\text{正交毎日平行} &= 0°.0529551677 \\
\text{最高応} &= 43°.242059 \\
\text{正交応} &= 328°.557625 \\
\text{積日} &= \text{中積分} + \text{小数部}(\text{気応分}) - \text{小数部}(\text{天正冬至}) \\
\text{最高年根} &= \text{積日} \times \text{最高毎日平行} + \text{最高応} \\
\text{正交年根} &= \text{積日} \times \text{正交毎日平行} + \text{正交応} \\
\text{最高平行} &= \text{日数} \times \text{最高毎日平行} + \text{最高年根} + \text{太陽一均} \\
\text{正交平行} &= \text{日数} \times \text{正交毎日平行} + \text{正交年根}
\end{align} \]
月の遠地点、昇交点の平均黄経を求める。求め方はおなじみのもので、特段悩むところはない。「最高応」「正交応」は、暦元天正冬至次日0:00
時点の遠地点平均黄経、昇交点平均黄経を示す定数である。
「積日」は、暦元天正冬至次日0:00~当年天正冬至次日0:00の経過日時である。「中積分」は暦元天正冬至~当年天正冬至の経過日時。「気応分」は暦元上元甲子日0:00~暦元天正冬至の経過日時で、その小数部は、暦元天正冬至日0:00~暦元天正冬至の経過時間。「天正冬至」は、当年上元甲子日(当ブログの計算では暦元上元甲子日)0:00~当年天正冬至の経過日時であり、その小数部は、当年天正冬至日0:00~当年天正冬至の経過時間。よって、式の計算を求めることにより、積日は、暦元天正冬至日0:00~当年天正冬至日0:00の経過日時を求めていることになり、これは、暦元天正冬至次日0:00~当年天正冬至次日0:00の経過日時に等しい。
最高/正交応に、積日×最高/正交毎日平行を加えて、当年天正冬至次日0:00時点の遠地点平均黄経、昇交点平均黄経(年根)を得る。
最高/正交年根に、日数(当年天正冬至次日0:00を
Day #0
として、求めたい日時を示す値)××最高/正交毎日平行を加えて、求めたい日時における遠地点平均黄経、昇交点平均黄経を得る。
「最高平行」に、太陽一均(章動)を加えている。章動は「太陽一均」と呼ばれてはいるが、太陽に限らずすべての黄経に加味すべきものだからである。一方、「正交平行」に太陽一均は加減されていないが、これは、そもそも、太陽一均を求めるために正交平行の値が必要なので、加減してしまうと循環参照が起きてしまうからである。「正交平行に章動は加味されていない」というのは留意しておく必要がある。
また、正交の黄経は逆回り(北極側から見て時計まわり)するので、ここで算出した正交は、符号が反転した黄経、つまり冬至を
0°
として逆回りする黄経として算出されていることに留意する必要がある。算出した正交平行が
20° ならそれは実際は -20° (340°) のことであり、 290° ならそれは実際は -290°
(70°) のことである。
平月距日、平引数
求平月距日「置太陰平行、減太陽黄道実行(不足減者、加十二宮減之)、得平月距日。倍之(満十二宮去之)、為倍平月距日」
太陰平行を置き、太陽黄道実行を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、平月距日を得。これを倍し(満十二宮これを去く)、倍平月距日と為す。
求平引数「置太陰平行、減最高平行(不足減者、加十二宮減之)、得平引数。倍之(満十二宮去之)、為倍平引数」
太陰平行を置き、最高平行を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、平引数を得。これを倍し(満十二宮これを去く)、倍平引数と為す。
\[ \begin{align}
\text{平月距日} &= \text{太陰平行} - \text{太陽黄道実行} \\
\text{平引数} &= \text{太陰平行} - \text{最高平行} \\
\end{align} \]
以降、月の真黄経を求めるための諸均数を算出していくが、そのために用いる argument として、月平均黄経の太陽平均黄経からの離角「平月距日」、月平均黄経の月遠地点平均黄経からの離角(月の平均遠点角)「平引数」を計算しておく。
太陽の平均黄経、平均近点黄経、月の平均黄経、平均近点黄経、平均昇交点黄経をそれぞれ、\(\lambda_s, \varpi_s, \lambda_m, \varpi_m, \Omega_m\) とするとき、
- 月の太陽からの離角 \(D = \lambda_m - \lambda_s\)
- 太陽の平均近点角 \(l^\prime = \lambda_s - \varpi_s\)
- 月の平均近点角 \(l = \lambda_m - \varpi_m\)
- 月の昇交点からの離角 \(F = \lambda_m - \Omega_m\)
を使って、月の位置計算を記述することがあるが、平月距日、平引数は、\(D, l\)
に相当するものである。ただし、平引数は平均近点角ではなく平均遠点角なので、正しくは
\(l + 180°\) に相当するものである。
一均~十均
さて、この後は、月の真黄経を得るための不等項を、一均から十均まで一気に見ていく。寛政暦においては月の均数それぞれについてある程度詳述したが、正直、天保暦の月の均数いちいちについて詳述していると日が暮れるし、私の能力も超えるので、詳述はせずポイントのみ。
- どうでもいいっちゃどうでもいいのだが、寛政暦の月離とか天保暦の日躔とかでは、均数は「初均(つまりゼロ均)」から始まって、一均、二均……とネーミングされていたが、天保暦の月離では、初均がなくて一均から始まっている。なんでなんだろ。
一均
一均最大一差一十七分三十三秒三十三微
一均最大二差八秒三十三微
求一均(即旧法所謂一平均)「以半径為一率、太陽引数之正弦為二率、一均最大一差為三率、求得四率為一均一差(太陽引数、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減)。又以半径為一率、太陽倍引数之正弦為二率、一均最大二差為三率、求得四率為一均二差(太陽倍引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加)。乃以一均一差与一均二差、同加異減、得一均。加数大為加、減数大為減」
[一均、則ち旧法謂ふところの一平均] 半径を以って一率と為し、太陽引数の正弦、二率と為し、一均最大一差、三率と為し、求めて得る四率、一均一差と為す(太陽引数、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す)。又、半径を以って一率と為し、太陽倍引数の正弦、二率と為し、一均最大二差、三率と為し、求めて得る四率、一均二差と為す(太陽倍引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す)。すなはち一均一差を以って一均二差と、同じきは加へ異なるは減じ、一均を得。加数大は加と為し、減数大は減と為す。
\[ \begin{align}
\text{一均一差} &= +0°.173333 \sin(\text{太陽引数}) \\
\text{一均二差} &= -0°.000833 \sin(2 \times \text{太陽引数}) \\
\text{一均} &= \text{一均一差} + \text{一均二差}
\end{align} \]
一均は、寛政暦の一平均、つまり年差 annual equation に相当するものである。寛政暦では、近似的なケプラー式により求めた太陽均数(中心差)に比例するものとして計算されていたが、天保暦においては太陽引数(太陽の平均遠点角)から直接求めている。フーリエ級数展開により、倍角項まで求めている。
\(\text{太陽引数} = l^\prime + 180°\) であり、
\(\text{一均} = -0°.173333 \sin
l^\prime -0°.000833 \sin 2l^\prime\)
を求めていることになる。
二均
最大二均一分五十秒
求二均引数「置倍平月距日、加太陽引数(満十二宮去之)、得二均引数」
倍平月距日を置き、太陽引数を加へ(満十二宮これを去く)、二均引数を得。
求二均「以半径為一率、二均引数之正弦為二率、最大二均為三率、求得四率為二均。二均引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加」
半径を以って一率と為し、二均引数の正弦、二率と為し、最大二均、三率と為し、求めて得る四率、二均と為す。二均引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す。
\[ \begin{align}
\text{二均引数} &= 2 \times \text{平月距日} + \text{太陽引数} \\
\text{二均} &= -0°.0150 \sin(\text{二均引数})
\end{align} \]
寛政暦に直接相当するものはない。強いて言えば、寛政暦の二均(二均差)は、地球と太陽との間の距離によって(正しくは「距離の逆三乗に比例して」だが、寛政暦では「距離の三乗にマイナスの比例定数で比例して」になっていた)振幅を変えていて、これは、
\[
\begin{align}
\text{二均差} &= \alpha \sin(2D) r^{-3} \\
&=
\alpha \sin 2D \left( 1 - e^2 \over 1 + e \cos l^\prime \right)^{-3} \\
&\fallingdotseq
\alpha \sin 2D (1 + 3e \cos l^\prime) \\
&= \alpha \sin 2D + {3 \over
2} e \alpha \sin(l^\prime + 2D) - {3 \over 2} e \alpha \sin(l^\prime - 2D)
\end{align}
\]
とも表現でき、とすれば、天保二均(\(+\sin(l^\prime + 2D)\)
の項)、天保三均(\(-\sin(l^\prime - 2D)\) の項)として現れてくることになる。
\({二均} = -0°.0150 \sin(2D + (l^\prime + 180°)) = +0°.0150 \sin(l^\prime +
2D)\)
三均
最大三均一分九十一秒六十七微
求三均引数「置倍平月距日、減太陽引数(不足減者、加十二宮減之)、得三均引数」
倍平月距日を置き、太陽引数を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、三均引数を得。
求三均「以半径為一率、三均引数之正弦為二率、最大三均為三率、求得四率為三均。三均引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加」
半径を以って一率と為し、三均引数の正弦、二率と為し、最大三均、三率と為し、求めて得る四率、三均と為す。三均引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す。
\[ \begin{align}
\text{三均引数} &= 2 \times \text{平月距日} - \text{太陽引数} \\
\text{三均} &= -0°.019167 \sin(\text{三均引数})
\end{align} \]
寛政暦に直接相当するものはないが、上記二均の説明を参照。
\(\text{三均} = -0°.019167 \sin(2D - (l^\prime + 180°)) = -0°.019167 \sin(l^\prime
- 2D)\)
四均
最大四均一分五十秒
求四均引数「置倍平月距日、加平引数(満十二宮去之)、得四均引数」
倍平月距日を置き、平引数を加へ(満十二宮これを去く)、四均引数を得。
求四均「以半径為一率、四均引数之正弦為二率、最大四均為三率、求得四率為四均。四均引数、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減」
半径を以って一率と為し、四均引数の正弦、二率と為し、最大四均、三率と為し、求めて得る四率、四均と為す。四均引数、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す。
\[ \begin{align}
\text{四均引数} &= 2 \times \text{平月距日} + \text{平引数} \\
\text{四均} &= +0°.0150 \sin(\text{四均引数})
\end{align} \]
寛政暦に相当するものはない。
\(\text{四均} = +0°.0150 \sin(2D + (l + 180°)) = -0°.0150 \sin(2D + l)\)
五均
五均最大一差一度三十四分二十七秒七十八微
五均最大二差一分
求五均引数「置倍平月距日、減平引数(不足減者、加十二宮減之)、得五均引数。倍之(満十二宮去之)、為五均倍引数」
倍平月距日を置き、平引数を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、五均引数を得。これを倍し(満十二宮これを去く)、五均倍引数と為す。
求五均「以半径為一率、五均引数之正弦為二率、五均最大一差為三率、求得四率為五均一差(五均引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加)。又以半径為一率、五均倍引数之正弦為二率、五均最大二差為三率、求得四率為五均二差(五均倍引数、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減)。乃以五均一差与五均二差、同加異減、得五均。加数大為加、減数大為減」
半径を以って一率と為し、五均引数の正弦、二率と為し、五均最大一差、三率と為し、求めて得る四率、五均一差と為す(五均引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す)。又、半径を以って一率と為し、五均倍引数の正弦、二率と為し、五均最大二差、三率と為し、求めて得る四率、五均二差と為す(五均倍引数、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す)。すなはち五均一差を以って五均二差と、同じきは加へ異なるは減じ、五均を得。加数大は加と為し、減数大は減と為す。
\[ \begin{align}
\text{五均引数} &= 2 \times \text{平月距日} - \text{平引数} \\
\text{五均一差} &= -1°.342778 \sin(\text{五均引数}) \\
\text{五均二差} &= +0°.01 \sin(2 \times \text{五均引数}) \\
\text{五均} &= \text{五均一差} + \text{五均二差}
\end{align} \]
出差 evection に相当する。倍角項まで算出している。寛政暦においては、月の遠地点真黄経(最高実行)、真の離心率(本天心距地)が、倍日距月最高(\(2l - 2D\))により周期的に増減しているものとしており、そうすると、出差が中心差(寛政暦月離の初均)のなかに自然に含まれて算出されてくるのであった。
天保暦においては、そのような意味での月の遠地点真黄経を求めていない(「最高実行」という値はあるが、それは、寛政暦でいう最高平均(遠地点黄経における年差)を加味した「用最高」に相当するものであり、寛政暦でいうような「最高実行」ではない)。よって、出差は、中心差とは別に求めることになる。
出差は、振幅 1°.342778 と、中心差に次いで非常に大きい項である。
\[ \begin{align}
\text{五均} &= -1°.342778 \sin(2D - (l + 180°)) +
0°.01 \sin(4D - 2(l + 180°)) \\
&= -1°.342778 \sin(l - 2D) - 0°.01
\sin(2l - 4D)
\end{align} \]
六均
最大六均三分五十八秒三十三微
求六均引数(即旧法所謂相距総数)「置五均引数、加太陽引数(満十二宮去之)、得六均引数」
[六均引数: 即ち旧法謂ふところの相距総数] 五均引数を置き、太陽引数を加へ(満十二宮これを去く)、六均引数を得。
求六均(即旧法所謂三均数)「以半径為一率、六均引数之正弦為二率、最大六均為三率、求得四率為六均。六均引数、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減」
[六均: 即ち旧法謂ふところの三均数] 半径を以って一率と為し、六均引数の正弦、二率と為し、最大六均、三率と為し、求めて得る四率、六均と為す。六均引数、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す。
\[ \begin{align}
\text{六均引数} &= \text{五均引数} + \text{太陽引数} \\
\text{六均} &= +0°.035833 \sin(\text{六均引数})
\end{align} \]
寛政暦における三均、プリンキピアでニュートン言うところの「月の第二中心差」に相当する。
\( \text{六均} = +0°.035833 \sin(2D - (l + 180°) + (l^\prime + 180°) = -0°.035833 \sin(l - l^\prime - 2D) \)
六均引数は、
\[2D - l + l^\prime = 2(\lambda_m - \lambda_s) - (\lambda_m
- \varpi_m) + (\lambda_s - \varpi_s) = (\lambda_m - \lambda_s) + (\varpi_m -
\varpi_s) \]
であり、月の太陽からの離角、月近点の太陽近点からの離角を加算したもの、寛政暦でいうところの「相距総数」となっている。
寛政暦の三均の説明のところで、「寛政暦ではたしかにこう計算しているし、プリンキピアをそのまま受け止めればニュートンもそう計算しているのだが、「月の第二中心差」は、本当は
\(\sin(l + l^\prime - 2D)
\)(つまり天保七均)として計算するのが正しいのではないか?と記載しておいた。水路部式や、E.
W. Brown の月行表などにおいても、天保六均に相当する \(\sin(l - l^\prime - 2D)
\) の項よりも、天保七均に相当する \(\sin(l + l^\prime - 2D) \)
の項の方が大きい。
七均
最大七均一分三十六秒一十一微
求七均引数「置五均引数、減太陽引数(不足減者、加十二宮減之)、得七均引数」
五均引数を置き、太陽引数を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、七均引数を得。
求七均「以半径為一率、七均引数之正弦為二率、最大七均為三率、求得四率為七均。七均引数、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減」
半径を以って一率と為し、七均引数の正弦、二率と為し、最大七均、三率と為し、求めて得る四率、七均と為す。七均引数、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す。
\[ \begin{align}
\text{七均引数} &= \text{五均引数} - \text{太陽引数} \\
\text{六均} &= +0°.013611 \sin(\text{七均引数})
\end{align} \]
寛政暦に相当するものはない。
\( \text{七均} = +0°.013611 \sin(2D - (l + 180°) - (l^\prime + 180°) =
-0°.013611\sin(l + l^\prime - 2D)\)
八均
最大八均九十四秒四十四微
求八均引数「置平引数、減太陽引数(不足減者、加十二宮減之)、得八均引数」
平引数を置き、太陽引数を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、八均引数を得。
求八均「以半径為一率、八均引数之正弦為二率、最大八均為三率、求得四率為八均。八均引数、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減」
半径を以って一率と為し、八均引数の正弦、二率と為し、最大八均、三率と為し、求めて得る四率、八均と為す。八均引数、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す。
\[ \begin{align}
\text{八均引数} &= \text{平引数} - \text{太陽引数} \\
\text{八均} &= +0°.009444 \sin(\text{八均引数})
\end{align} \]
寛政暦に相当するものはない。
\( \text{八均} = +0°.009444 \sin((l + 180°) - (l^\prime + 180°) = +0°.009444 \sin(l
- l^\prime)\)
九均
最大九均一分六十一秒一十一微
求日距正交「置太陽黄道実行、加減太陽一均(為加則減、為減則加)、加正交平行(満十二宮去之)、得日距正交。倍之(満十二宮去之)、為倍日距正交」
太陽黄道実行を置き、太陽一均を加減し(加と為すは則ち減じ、減と為すは則ち加ふ)、正交平行を加へ(満十二宮これを去く)、日距正交を得。これを倍し(満十二宮これを去く)、倍日距正交と為す。
求九均(即旧法所謂三平均)「以半径為一率、倍日距正交之正弦為二率、最大九均為三率、求得四率為九均。倍日距正交、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加」
[九均: 即ち旧法謂ふところの三平均] 半径を以って一率と為し、倍日距正交の正弦、二率と為し、最大九均、三率と為し、求めて得る四率、九均と為す。倍日距正交、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す。
\[ \begin{align}
\text{日距正交} &= \text{太陽黄道実行} - \text{太陽一均} + \text{正交平行} \\
\text{九均} &= -0°.016111 \sin(2 \times \text{日距正交})
\end{align} \]
寛政暦の三平均、プリンキピアでニュートンいうところの「第二の半年差」に相当する。
太陽平均黄経の月の昇交点黄経からの離角「日距正交」の倍度、つまり、
\(2(\lambda_s
- \Omega_m) = 2(\lambda_m - \Omega_m) - 2(\lambda_m - \lambda_s) = 2F -
2D\)
をもとに算出する。
「日距正交」を算出するにあたり、「太陽黄道実行」には一均(章動)が加味されているのに対し、「正交平行」には加味されていないので一均を減算しておく必要があること、「正交平行」は逆回り黄経であるので、太陽平均黄経の月の昇交点黄経からの離角を求めるには、
「\({太陽黄道実行}
- {正交平行}\)」ではなく、
「\({太陽黄道実行} - (-{正交平行}) =
{太陽黄道実行} +
{正交平行}\)」を算出しなければいけないことに留意が必要である。
\(\text{九均} = -0°.016111 \sin(2F - 2D)\)
十均
十均最大一差四十四秒四十四微
十均最大二差一分六十一秒一十一微
求最高距日「置最高平行、減太陽黄道実行(不足減者、加十二宮減之)、得最高距日。倍之(満十二宮去之)、為倍最高距日。三之(満十二宮去之)、為三倍最高距日」
最高平行を置き、太陽黄道実行を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、最高距日を得。これを倍し(満十二宮これを去く)、倍最高距日と為す。これを三し(満十二宮これを去く)、三倍最高距日と為す。
求十均(即旧法所謂二平均)「以半径為一率、最高距日之正弦為二率、十均最大一差為三率、求得四率為十均一差(最高距日、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減)。又以半径為一率、倍最高距日之正弦為二率、十均最大二差為三率、求得四率為十均二差(倍最高距日、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加)。乃以十均一差与十均二差、同加異減、得十均。加数大為加、減数大為減」
[十均: 即ち旧法謂ふところの二平均] 半径を以って一率と為し、最高距日の正弦、二率と為し、十均最大一差。三率と為し、求めて得る四率、十均一差と為す(最高距日、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す)。又、半径を以って一率と為し、倍最高距日の正弦、二率と為し、十均最大二差、三率と為し、求めて得る四率、十均二差と為す(倍最高距日、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す)。すなはち十均一差を以って十均二差と、同じきは加へ異なるは減じ、十均を得。加数大は加と為し、減数大は減と為す。
\[ \begin{align}
\text{最高距日} &= \text{最高平行} - \text{太陽黄道実行} \\
\text{十均一差} &= +0°.004444 \sin(\text{最高距日}) \\
\text{十均二差} &= +0°.016111 \sin(2 \times \text{最高距日}) \\
\text{十均} &= \text{十均一差} + \text{十均二差}
\end{align} \]
十均二差は、寛政暦における二平均、プリンキピアでニュートン言うところの「半年差」に相当する。寛政暦月離の二平均においては、地球と太陽との距離に応じて振幅を拡縮していたが、それで出てくる差は微々たるものなので、天保暦においてはその効果は加味していない。十均一差はなんだろうか。
また、 寛政暦における二平均は、地球と太陽の距離によって 0°.0596~0°.0654
の振幅を持ち、また、水路部式において相当すると考えられる第七不等項 \(+0°.0588
\sin(86°.16 + 638°.635 t)\) は、0°.0588
の振幅を持つ。それと比較すると、天保暦の十均二差 0°.016111
は、少々小さすぎるように思うが。
\[\begin{align}
\text{十均} &= +0°.004444 \sin((\varpi_m + 180°) -
\lambda_s) + 0°.016111 \sin(2(\varpi_m + 180°) - 2\lambda_s) \\
&=
-0°.004444 \sin((\lambda_m - \lambda_s) - (\lambda_m - \varpi_m)) +
0°.016111 \sin(2(\lambda_m - \lambda_s) - 2(\lambda_m - \varpi_m)) \\
&=
-0°.004444 \sin(D - l) + 0°.016111 \sin(2D - 2l) \\
&= +0°.004444
\sin(l - D) -0°.016111 \sin(2l - 2D)
\end{align} \]
併均
求併均「自一均至十均、加号相併為加均、減号相併為減均。両均数相減、得併均。加数大為加、減数大為減」
一均より十均に至る、加号、相併せ加均と為し、減号、相併せ減均と為す。両均数相減じ、併均を得。加数大は加と為し、減数大は減と為す。
\[ \begin{align}
\text{併均} &= \text{一均} + \text{二均} + \text{三均} + \text{四均} + \text{五均} + \text{六均} + \text{七均} + \text{八均} + \text{九均} + \text{十均}
\end{align} \]
一均~十均までを全部足し合わせて「併均」を得る。ここまでのところで、月の均数の大玉である十一均(中心差、寛政初均)、十二均(二均差、寛政二均)などを計算する出発点に立ったことになる。
最高実行(月の遠地点の真黄経)、正交実行(月の昇交点の真黄経)
最高均最大一差三十八分六十六秒六十七微
最高均最大二差一十六秒六十七微
正交均最大一差一十四分七十二秒二十二微
正交均最大二差五秒五十六微
以最高均「以半径為一率、太陽引数之正弦為二率、最高均最大一差為三率、求得四率為最高均一差(太陽引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加)。又以半径為一率、太陽倍引数之正弦為二率、最高均最大二差為三率、求得四率為最高均二差(太陽倍引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加)乃以最高均一差与最高均二差、同加異減、得最高均。加数大為加、減数大為減」
半径を以って一率と為し、太陽引数の正弦、二率と為し、最高均最大一差、三率と為し、求めて得る四率、最高均一差と為す(太陽引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す)。又、半径を以って一率と為し、太陽倍引数の正弦、二率と為し、最高均最大二差、三率と為し、求めて得る四率、最高均二差と為す(太陽倍引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す)すなはち最高均一差を以って最高均二差と、同じきは加へ異なるは減じ、最高均を得。加数大は加と為し、減数大は減と為す。
求正交均「以半径為一率、太陽引数之正弦為二率、正交均最大一差為三率、求得四率為正交均一差(太陽引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加)。又以半径為一率、太陽倍引数之正弦為二率、正交均最大二差為三率、求得四率為正交均二差(太陽倍引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加)。乃以正交均一差与正交均二差、同加異減、得正交均。加数大為加、減数大為減」
半径を以って一率と為し、太陽引数の正弦、二率と為し、正交均最大一差、三率と為し、求めて得る四率、正交均一差と為す(太陽引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す)。又、半径を以って一率と為し、太陽倍引数の正弦、二率と為し、正交均最大二差、三率と為し、求めて得る四率、正交均二差と為す(太陽倍引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す)。すなはち正交均一差を以って正交均二差と、同じきは加へ異なるは減じ、正交均を得。加数大は加と為し、減数大は減と為す。
求最高実行「置最高平行、加減最高均、得最高実行」
最高平行を置き、最高均を加減し、最高実行を得。
求正交実行「置正交平行、加減正交均、又加減太陽一均(為加則減、為減則加)、得正交実行」
正交平行を置き、正交均を加減し、又、太陽一均を加減し(加と為すは則ち減じ、減と為すは則ち加ふ)、正交実行を得。
\[ \begin{align}
\text{最高均一差} &= -0°.386667 \sin(\text{太陽引数}) \\
\text{最高均二差} &= -0°.001667 \sin(2 \times \text{太陽引数}) \\
\text{最高均} &= \text{最高均一差} + \text{最高均二差} \\
\text {正交均一差} &= -0°.147222 \sin(\text{太陽引数}) \\
\text{正交均二差} &= -0°.000556 \sin(2 \times \text{太陽引数}) \\
\text{正交均} &= \text{正交均一差} + \text{正交均二差} \\
\text{最高実行} &= \text{最高平行} + \text{最高均} \\
\text{正交実行} &= \text{正交平行} + \text{正交均} - \text{太陽一均}
\end{align} \]
最高均、正交均は、寛政暦の最高平均、正交平均に相当するものである。月黄経の一均(年差)と同様、寛政暦では近似的なケプラー式により求めた太陽均数(中心差)に比例するものとして計算していたが、天保暦の最高均、正交均では、直接、太陽引数から計算し、また、フーリエ級数展開により倍角の項まで計算している。
寛政暦月離においては、最高実行は、\(2l - 2D\) の周期で増減し、正交実行は、\(2F
- 2D\)
の周期で増減するものとして計算しており、そうすることによって、中心差を計算すれば自然に出差が含まれて算出され、黄緯を計算すれば自然に「緯度における出差」が含まれて算出されていた。
天保暦では、そういう考え方はとっておらず、天保暦でいうところの「最高実行」「正交実行」は、寛政暦でいうところの「用最高」「用正交」(太陽の中心差とほぼ比例する「最高平均」「正交平均」、つまり、遠地点・昇交点における年差のみを、平均黄経に加減したもの)である。天保暦では、出差、緯度における出差は、別の不等項として算出することになる。
正交実行では、(正交平行には太陽一均(章動)を加味していなかったので)このタイミングで太陽一均を加味している。正交は逆回り黄経なので、足すのではなく引いている。「加と為すは則ち減じ、減と為すは則ち加ふ」。
さて、新法暦書巻二に記載の計算を文字通り実装すれば、上記のとおりだが、この計算は少々おかしい。
日躔の初均の計算では、
\[ \begin{align}
\text{初均一差} &= -1°.925314
\sin(\text{引数}) \\
\text{初均二差} &= +0°.020222 \sin(2 \times \text{引数}) \\
\text{初均三差}
&= -0°.000286 \sin(3 \times \text{引数}) \\
\text{初均} &= \text{初均一差} +
\text{初均二差} + \text{初均三差}
\end{align} \]
となっていた。初均一差はマイナスの項、初均二差はプラスの項である。「(太陽)引数」は遠点角なので、こうあってしかるべきだ。
また、月黄経の一均の計算では、
\[ \begin{align}
\text{一均一差} &=
+0°.173333 \sin(\text{太陽引数}) \\
\text{一均二差} &= -0°.000833 \sin(2 \times
\text{太陽引数}) \\
\text{一均} &= \text{一均一差} + \text{一均二差}
\end{align} \]
である。月の年差は、太陽の中心差と概ね比例しつつ逆向きになるので、太陽初均とは符号が反転し、一均一差はプラス、一均二差はマイナスの項である。これもいい。
だとすれば、同様に太陽の中心差と概ね比例するはずの、最高均、正交均では、
\[
\begin{align}
\text{最高均一差} &= -0°.386667 \sin(\text{太陽引数}) \\
\text{最高均二差}
&= {\color{red}+} 0°.001667 \sin(2 \times \text{太陽引数}) \\
\text{最高均}
&= \text{最高均一差} + \text{最高均二差} \\
\text{正交均一差} &= -0°.147222 \sin(\text{太陽引数}) \\
\text{正交均二差} &=
{\color{red}+} 0°.000556 \sin(2 \times {\text太陽引数}) \\
\text{正交均} &=
\text{正交均一差} + \text{正交均二差}
\end{align} \]
でなくてはならない。最高均二差・正交均二差の符号がおかしい。
最高均一差・正交均一差は、「太陽引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す」と言っているので、第1,
2象限はマイナス、第3, 4象限はプラス、つまり、\(- \sin l^\prime\) に比例、
最高均二差・正交均二差も、「太陽倍引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す」と言っているので、第1,
2象限はマイナス、第3, 4象限はプラス、つまり、\(- \sin 2l^\prime\) に比例、
と書いているから、それに従えば上記のような計算になってしまうのだが、それでは辻褄があわないのだ。
ここで、参考になるものとして、国立天文台図書室所蔵のデジタル化資料「明治6 癸酉暦推算」の 8 スライド目あたりをみてもらうと、「最高均二差」「正交均二差」が計算してあるところの上部欄外に「法ト加減反」と注記がしてあり、そしてまた実際算出された値を見ると、(値には、加(プラス)の場合「カ」、減(マイナス)の場合「ン」と符号が表記されているのだが)新法暦書の式で得られるものとは反対の符号が記載されているようなのだ。天保暦の施行期間が終わった明治6年暦の推算稿であり、また、実際の暦作成のために作成されたものなのかどうかもわからないが、参考にはなるだろう。
また、「新法暦書表」で計算済の数表となっているものを見ても、新法暦書記載数式とは符号を違えたほうが数表の数値とあうようだ。
とはいえ、天保暦施行期間中にどう計算されたのか(あるいは、そもそも最高均、正交均を計算したのか?)はよくわからない。符号をどちらにしようが頒暦記載レベルでは影響を受けないようだ。
以上、月の黄経を求めるにあたってのハイライト(?)、十一均(中心差)、十二均(二均差、および月角差)を求めるための下準備までは完了した。続きは次回に。
[参考文献]
渋川 景祐; 足立 信頭「新法暦書」 国立公文書館デジタルアーカイブ蔵
渋川 景祐; 足立 信行「新法暦書続編」 国立公文書館デジタルアーカイブ蔵
渋川 景祐; 足立 信行「新法暦書表」 国立公文書館デジタルアーカイブ蔵
Newton, Isaac; (訳注) 中野 猿人「ブルーバックス: プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第III編 世界体系」, 講談社, 2019-08-20 ISBN-9784065166574
Brown, E. W. (1919) "Tables of the Motion of the Moon", New Haven: Yale University Press https://archive.org/stream/tablesofmotionof12browrich
0 件のコメント:
コメントを投稿