2020年10月25日日曜日

天保暦の暦法 (7) 月離 (2) 十一均~十三均、黄白升度差、黄道実行、定朔弦望

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前回に引き続き、天保暦における月の黄経の算出について記述する。

前回までのところで、平行(平均黄経)と一均~十均の不等項の説明が終わったので、今回はその残り、十一均(中心差 equation of center)、十二均(二均差 variation、月角差 parallactic inequality)、十三均、および、黄白升度差(道差)を算出し、月の黄道実行(真黄経)を算出する。

また、月・太陽の黄道実行から、定朔弦望日時を算出する。

 

 十一均(中心差)

十一均最大一差六度三十零分四十一秒六十七微
十一均最大二差二十一分六十一秒一十一微
十一均最大三差一分零ニ秒七十八微
求実引数「置平引数、加減併均、又加減最高均(為加則減、為減則加)、得実引数。倍之(満十二宮去之)、為倍実引数。三之(満十二宮去之)、為三倍実引数」
平引数を置き、併均を加減し、又、最高均を加減し(加と為すは則ち減じ、減と為すは則ち加ふ)、実引数を得。これを倍し(満十二宮これを去く)、倍実引数と為す。これを三し(満十二宮これを去く)、三倍実引数と為す。
求十一均一差「以半径為一率、実引数之正弦為二率、十一均最大一差為三率、求得四率為十一均一差。実引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加」
半径を以って一率と為し、実引数の正弦、二率と為し、十一均最大一差、三率と為し、求めて得る四率、十一均一差と為す。実引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す。
求十一均二差「以半径為一率、倍実引数之正弦為二率、十一均最大二差為三率、求得四率為十一均二差。倍実引数、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減」
半径を以って一率と為し、倍実引数の正弦、二率と為し、十一均最大二差、三率と為し、求めて得る四率、十一均二差と為す。倍実引数、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す。
求十一均三差「以半径為一率、三倍実引数之正弦為二率、十一均最大三差為三率、求得四率為十一均三差。三倍実引数、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加」
半径を以って一率と為し、三倍実引数の正弦、二率と為し、十一均最大三差、三率と為し、求めて得る四率、十一均三差と為す。三倍実引数、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す。
求十一均(即旧法所謂初均数)「以十一均一差二差三差、各同加異減、得十一均。加数大為加、減数大為減」
[十一均(即ち旧法謂ふところの初均数] 十一均一差・二差・三差を以って、各おの同じきは加へ異なるは減じ、十一均を得。加数大は加と為し、減数大は減と為す。
\[ \begin{align}
\text{実引数} &= \text{平引数} + \text{併均} - \text{最高均} \\
\text{十一均一差} &= -6°304167 \sin(\text{実引数}) \\
\text{十一均二差} &= +0°.216111 \sin(2 \times {\text実引数}) \\
\text{十一均三差} &= -0°.010278 \sin(3 \times \text{実引数}) \\
\text{十一均} &= \text{十一均一差}  + \text{十一均二差} + \text{十一均三差}
\end{align} \]

中心差 equation of center である。「実引数」は、平均遠点角であるが、月黄経について併均を、月遠地点黄経について最高均を加味し、「中心差以外の不等項を加味してなるべく精緻化してから中心差を計算しよう」という方針のようである。

太陽初均と同様、フーリエ級数展開した形式となっている。天保暦月離において月の離心率は明示されていないが、大体、
\[ {180° \over \pi}(2e - {1 \over 4} e^3) = 6°304167 \]
になるはずなので、\(e = 0.055035\) ぐらいになるはず。

そうだとして、例によって精度をグラフに書いてみる。暦法どおりに計算した真近点角からケプラー方程式に基づいて平均近点角を逆算し誤差を見る。すると下記のような感じ。横軸は遠点角ではなく近点角ベースで記載している。縦軸の単位は六十進角度秒。太陽初均と似たような感じで、\(E_2\) と \(E_3\) の間ぐらいの精度。まあまあ妥当な感じではなかろうか。


十二均(二均差・月角差)

十二均最大一差三分二十五秒
十二均最大二差五十九分五十二秒七十八微
十二均最大三差五秒五十六微
十二均最大四差二十七秒七十八微
求実月距日「置平月距日、加減併均及十一均、得実月距日。倍之(満十二宮去之)、為倍実月距日。三之(満十二宮去之)、為三倍実月距日。四之(満十二宮去之)、為四倍実月距日」
平月距日を置き、併均及び十一均を加減し、実月距日を得。これを倍し(満十二宮これを去く)、倍実月距日と為す。これを三し(満十二宮これを去く)、三倍実月距日と為す。これを四し(満十二宮これを去く)、四倍実月距日と為す。
求十二均一差「以半径為一率、実月距日之正弦為二率、十二均最大一差為三率、求得四率為十二均一差。実月距日、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加」
半径を以って一率と為し、実月距日の正弦、二率と為し、十二均最大一差、三率と為し、求めて得る四率、十二均一差と為す。実月距日、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す。
求十二均二差「以半径為一率、倍実月距日之正弦為二率、十二均最大二差為三率、求得四率為十二均二差。倍実月距日、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減」
半径を以って一率と為し、倍実月距日の正弦、二率と為し、十二均最大二差、三率と為し、求めて得る四率、十二均二差と為す。倍実月距日、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す。
求十二均三差「以半径為一率、三倍実月距日之正弦為二率、十二均最大三差為三率、求得四率為十二均三差。三倍実月距日、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減」
半径を以って一率と為し、三倍実月距日の正弦、二率と為し、十二均最大三差、三率と為し、求めて得る四率、十二均三差と為す。三倍実月距日、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す。
求十二均四差「以半径為一率、四倍実月距日之正弦為二率、十二均最大四差為三率、求得四率為十二均四差。四倍実月距日、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減」
半径を以って一率と為し、四倍実月距日の正弦、二率と為し、十二均最大四差、三率と為し、求めて得る四率、十二均四差と為す。四倍実月距日、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す。
求十二均(即旧法所謂二均数)「以十二均一差二差三差四差、各同加異減、得十二均。加数大為加、減数大為減」
[十二均(即ち旧法謂ふところの二均数)] 十二均一差・二差・三差・四差を以って、各おの同じきは加へ異なるは減じ、十二均を得。加数大は加と為し、減数大は減と為す。
\[ \begin{align}
\text{実月距日} &= \text{平月距日} + \text{併均} + \text{十一均} \\
\text{十二均一差} &= -0°.0325 \sin(\text{実月距日}) \\
\text{十二均二差} &= +0°.595278 \sin(2 \times \text{実月距日}) \\
\text{十二均三差} &= +0°.000556 \sin(3 \times \text{実月距日}) \\
\text{十二均四差} &= +0°.002778 \sin(4 \times \text{実月距日}) \\
\text{十二均} &= \text{十二均一差} + \text{十二均二差} + \text{十二均三差} + \text{十二均四差}
\end{align} \]

「実月距日」は、月の太陽からの離角 \(D = \lambda_m - \lambda_s\) である。月の黄経の不等項、併均(一均~十均の和)と、十一均を加味して、十二均を計算する前にそのインプットデータの精度を高めておいている。

十二均二差・十二均四差は、二均差 variation に相当し、十二均一差・十二均三差は、月角差 parallactic inequality に相当する。「十二均(即ち旧法謂ふところの二均数)」と言っているが、これは少々言葉足らず。寛政暦月離の二均は、二均差 variation にのみ相当するもので、月角差 parallactic inequality は、(少々不明確なところはあるものの)寛政暦月離の末均に相当するようだ。天保暦月離の十二均は、二均差・月角差の合計である。

十三均

最大十三均二分三十零秒五十六微
求初実行「置太陰平行、加減併均十一均及十二均、得初実行」
太陰平行を置き、併均、十一均、及び十二均を加減し、初実行を得。
求月距正交「置初実行、加正交実行(満十二宮去之)、得月距正交。倍之(満十二宮去之)、為倍月距正交」
初実行を置き、正交実行を加へ(満十二宮これを去く)、月距正交を得。これを倍し(満十二宮これを去く)、倍月距正交と為す。
求十三均引数「置倍月距正交、減実引数(不足減者、加十二宮減之)、得十三均引数」
倍月距正交を置き、実引数を減じ(減に足らざれば、十二宮を加へこれを減ず)、十三均引数を得。
求十三均「以半径為一率、十三均引数之正弦為二率、最大十三均為三率、求得四率為十三均。十三均引数、初宮至五宮為加、六宮至十一宮為減」
半径を以って一率と為し、十三均引数の正弦、二率と為し、最大十三均、三率と為し、求めて得る四率、十三均と為す。十三均引数、初宮より五宮に至るは加と為し、六宮より十一宮に至るは減と為す。
\[ \begin{align}
\text{初実行} &= \text{太陰平行} + \text{併均} + \text{十一均} + \text{十二均} \\
\text{月距正交} &= \text{初実行} + \text{正交実行} \\
\text{十三均引数} &= 2 \times \text{月距正交} - \text{実引数} \\
\text{十三均} &= +0°.023056 \sin(\text{十三均引数})
\end{align} \]

寛政暦に相当するものはない。\(\text{十三均引数} = 2F - (l + 180°)\) を、これまでに算出した不等をすべて加味して計算している。

\({十三均} = +0°.023056 \sin(2F - (l + 180°)) = +0°.023056 \sin(l - 2F)\)

白道実行

求白道実行「置初実行、加減十三均、得白道実行」
初実行を置き、十三均を加減し、白道実行を得。
\[ \text{白道実行} = \text{初実行} + \text{十三均} \]

白道実行は、太陰平行に、一均~十三均の不等項をすべて加味したもの。白道座標系における経度、すなわち白経であり、黄白座標変換をして黄経を求めることになる。

黄白升度差と黄道実行

黄白升度大差一十一分一十九秒四十四微
求実月距正交「置月距正交、加減十三均、得実月距正交。倍之(満十二宮去之)、為倍実月距正交。三之(満十二宮去之)、為三倍実月距正交」
月距正交を置き、十三均を加減し、実月距正交を得。これを倍し(満十二宮、これを去く)、倍実月距正交と為す。これを三し(満十二宮これを去く)、三倍実月距正交と為す。
求黄白升度差「以半径為一率、倍実月距正交之正弦為二率、黄白升度大差為三率、求得四率為黄白升度差。倍実月距正交、初宮至五宮為減、六宮至十一宮為加」
半径を以って一率と為し、倍実月距正交の正弦、二率と為し、黄白升度大差、三率と為し、求めて得る四率、黄白升度差と為す。倍実月距正交、初宮より五宮に至るは減と為し、六宮より十一宮に至るは加と為す。
求黄道実行「置白道実行、加減黄白升度差、得黄道実行」
白道実行を置き、黄白升度差を加減し、黄道実行を得。
\[ \begin{align}
\text{実月距正交} &= \text{月距正交} + \text{十三均} \\
\text{黄白升度差} &= - 0°.111944 \sin(2 \times \text{実月距正交}) \\
\text{黄道実行} &= \text{白道実行} + \text{黄白升度差}
\end{align} \]
白道実行に、白経と黄経の経度差である「黄白升度差」を加算して、黄道実行(真黄経)を得る。

\(F = {実月距正交}, \Delta = {黄白升度差}\)、白道の黄道に対する軌道傾斜角を \(i\) とすると、
\[ \tan(F + \Delta) =\cos i \tan F \]
であるが、近似的に \(\Delta\) は、\(- \sin 2F\) に比例する値となる。

実際、\(F\) を横軸、\(\Delta\) を縦軸にしてグラフを書いてみると上記のようになるので、見るからに \(- \sin 2F\) っぽいグラフになるのだが、なぜそうなるのか見てみよう。よって、
\[ \begin{align}
& {\tan F + \tan \Delta \over 1 - \tan F \tan \Delta} = \cos i \tan F \\
& \tan F + \tan \Delta = \cos i \tan F (1 - \tan F \tan \Delta) \\
& (1 + \cos i \tan^2 F) \tan \Delta = - (1 - \cos i) \tan F \\
& (\cos^2 F + \cos i \sin^2 F) \tan \Delta = -(1 - \cos i) \sin F \cos F \\
& (1 - (1 - \cos i) \sin^2 F) \tan \Delta = - (1 - \cos i) \sin F \cos F \\
& \cos i \fallingdotseq 1 \text{であり、} 1 \text{に比べて} 1 - \cos i \text{は微小なので、} 1 - (1 - \cos i) \sin^2 F \fallingdotseq 1 \\
& \tan \Delta \fallingdotseq - (1 - \cos i) \sin F \cos F = - {1 - \cos i \over 2} \sin 2F \\
& \Delta \text{をラジアン単位の角とすれば、} \tan \Delta \fallingdotseq \Delta \text{。角度単位に直して、} \\
& \Delta \fallingdotseq - {180° \over \pi} {1 - \cos i \over 2} \sin 2F
\end{align} \]

後に黄緯の計算のところで出てくるが、天保暦における月の軌道傾斜角(黄白大距中数)は、\(i  = 5°.146111\) なので、
\[ \Delta = - {180° \over \pi} {1 - \cos i \over 2} \sin 2F = -0°.115474 \sin 2F \]
となる。黄白升度大差 0°.111944 と、まあざっくり合っているのではないだろうか。

水路部式との比較

さて、月の真黄経を算出するための不等項がひととおり出そろったところで、天保暦の月の真黄経の算出式が妥当なのかどうか、水路部式と比較して評価してみることにしよう。

No. 不等の名前 寛政暦 天保暦 水路部式
振幅
天保暦
振幅
0 \(\lambda_m\) 平均項 平行 平行 - -
1 \(\sin(l)\) 中心差① 初均 十一均一差
\(+6.2887\) \(+6.304167\)
2 \(\sin(l-2D)\) 出差 (初均) 五均一差 \(-1.2740\) \(-1.342778\)
3 \(\sin(2D)\) 二均差 二均 十二均二差 \(+0.6583\) \(+0.595278\)
4 \(\sin(2l)\) 中心差② (初均) 十一均二差 \(+0.2136\) \(+0.216111\)
5 \(\sin(l^\prime)\) 年差 一平均 一均一差 \(-0.1856\) \(-0.173333\)
6 \(\sin(2F)\) 道差 升度差 升度差 \(+0.1143\) \(+0.111944\)
7 \(\sin(2l-2D)\) [半年差] 二平均 十均二差 \(-0.0588\) \(-0.016111\)
8 \(\sin(l+l^\prime-2D)\) [本来の第2中心差?]
七均 \(-0.0533\) \(-0.013611\)
9 \(\sin(l+2D)\)

四均 \(+0.0533\) \(-0.015\)
10 \(\sin(l^\prime-2D)\)

三均 \(-0.0459\) \(-0.019167\)
11 \(\sin(l-l^\prime)\)

八均 \(+0.0410\) \(+0.009444\)
12 \(\sin(D)\) 月角差 末均? 十二均一差 \(-0.0348\) \(-0.0325\)
13 \(\sin(l+l^\prime)\)


\(-0.0305\)
14 \(\sin(2F-2D)\) [第二の半年差] 三平均 九均 \(-0.0153\) \(-0.016111\)
15 \(\sin(l+2F)\)


\(-0.0125\)
16 \(\sin(l-2F)\)

十三均 \(+0.0110\) \(+0.023056\)
17 \(\sin(l-4D)\)


\(-0.0107\)
18 \(\sin(3l)\) 中心差③
十一均三差 \(+0.0100\) \(+0.010278\)
19 \(\sin(2l-4D)\)

五均二差 \(-0.0085\) \(-0.01\)
20 \(\sin(l-l^\prime-2D)\) [第2中心差] 三均 六均 \(+0.0079\) \(-0.035833\)
21 \(\sin(l^\prime+2D)\)

二均 \(-0.0068\) \(+0.0150\)
22 \(\sin(l-D)\)

十均一差 \(+0.0052\) \(+0.004444\)
23 \(\sin(l^\prime+D)\)


\(+0.0050\)
24 \(\sin(\Omega)\) 章動
太陽一均 \(-0.0048\) \(-0.004676\) ほど

水路部式の不等項は 64 項あるが、振幅上位 24 項のみを表示。水路部式と天保暦とで振幅の符号が異なるものを赤字、符号はあっているが、振幅値が 2 割以上相違するものを黄色にしている。これを見れば、少なくとも上位の項目については悪くない値となっており、天保暦の月黄経算出は、概ね悪くないと言えるのではないだろうか。

定朔弦望

求合朔弦望「太陰黄道実行与太陽黄道実行、同宮同度為合朔限、距三宮為上弦限、距六宮為望限、距九宮為下弦限。皆以太陰未及限度為本日、已過限度為次日(如太陰未及太陽、為合朔本日、已過太陽、為合朔次日。太陰距太陽未及三宮、為上弦本日、已過三宮、為上弦次日之類)。推時刻之法、以一日月距日実行(本日次日太陽黄道実行相減、為一日太陽実行。本日次日太陰黄道実行相減、為一日太陰実行。両数相減、即得)為一率、周日為二率、本日太陽黄道実行加限度(合朔同宮同度、無可加、上弦加三宮、望加六宮、下弦加九宮)、減太陰黄道実行、為三率、求得四率、為合朔弦望距子正後分数。如本日太陰黄道実行与太陽黄道実行相距度、適当合朔弦望限度、則合朔弦望即為本日子正初刻」
太陰黄道実行と太陽黄道実行と、同宮同度、合朔限と為し、三宮を距つるを上弦限と為し、六宮を距つるを望限と為し、九宮を距つるを下弦限と為す。みな、太陰いまだ限度に及ばざるを以って本日と為し、すでに限度を過ぐるを次日と為す(もし太陰いまだ太陽に及ばざるを合朔本日と為し、すでに太陽を過ぐるを合朔次日と為す。太陰の太陽を距つることいまだ三宮に及ばざるを上弦本日と為し、すでに三宮を過ぐるを上弦次日と為すの類)。時刻を推するの法、一日月距日実行を以って(本日次日太陽黄道実行相減じ、一日太陽実行と為す。本日次日太陰黄道実行相減じ、一日太陰実行と為す。両数相減じ、即ち得)一率と為し、周日、二率と為し、本日太陽黄道実行、限度を加へ(合朔は同宮同度にして、加ふるべき無く、上弦、三宮を加へ、望、六宮を加へ、下弦、九宮を加ふ)、太陰黄道実行を減じ、三率と為し、求めて得る四率、合朔弦望距子正後分数と為す。もし本日太陰黄道実行と太陽黄道実行の相距度、たまたま合朔弦望限度に当るは、則ち合朔弦望、即、本日子正初刻と為す。
求時差総「置所求日数、加合朔弦望距子正後分数、為合朔弦望距根日数及分秒。依日躔推定気用時法、各求其太陽赤道経度、以与太陽平行相減、余数変時分、為時差総」
求むるところの日数を置き、合朔弦望距子正後分数を加へ、合朔弦望距根日数及び分秒と為す。日躔定気用時を推するの法に依り、各おの其の太陽赤道経度を求め、以って太陽平行と相減じ、余数、時分に変じ、時差総と為す。
求合朔弦望用時「置合朔弦望距子正後分数、加減時差総、得合朔弦望用時。如法収之、得時刻」
合朔弦望距子正後分数を置き、時差総を加減し、合朔弦望用時を得。法の如くこれを収め、時刻を得。
求大小及閏月「本月合朔干名与次月合朔干名、同者本月大、不同者本月小。内無中気者為閏月」
本月合朔干名と次月合朔干名、同じきは本月大、同じからざるは本月小。内、中気無きものを閏月と為す。
\[ \begin{align}
\text{限度} &= \begin{cases}
\text{朔} &\dots 0° \\
\text{上弦} &\dots 90° \\
\text{望} &\dots 180° \\
\text{下弦} &\dots 270°
\end{cases} \\
&\text{太陰黄道実行}(@\text{本日}) - \text{太陽黄道実行}(@\text{本日}) \leqq \text{限度} \\
& \text{かつ、限度} \lt \text{太陰黄道実行}(@\text{次日}) - \text{太陽黄道実行}(@\text{次日}) \text{となるような本日について} \\
\text{一日太陽黄道実行} &= \text{太陽黄道実行}(@\text{次日}) - \text{太陽黄道実行}(@\text{本日}) \\
\text{一日太陰黄道実行} &= \text{太陰黄道実行}(@\text{次日}) - \text{太陰黄道実行}(@\text{本日}) \\
\text{一日月距日実行} &= \text{一日太陰黄道実行} - \text{一日太陽黄道実行} \\
\text{合朔弦望距子正後分数} &= 1_\text{日} \times {\text{太陽黄道実行}(@\text{本日}) + \text{限度} - \text{太陰黄道実行}(@\text{本日}) \over \text{一日月距日実行}} \\
\text{合朔弦望距根日数及び分秒} &= \text{日数} + \text{合朔弦望距子正後分数} \\
\text{時差総} &= {1_\text{日} \over 360°} (\text{太陽平行}(@\text{合朔弦望距根日数及び分秒}) - \text{太陽赤経}(@\text{合朔弦望距根日数及び分秒})) \\
\text{合朔弦望用時} &= \text{合朔弦望距根日数及び分秒} + \text{時差総}
\end{align} \]

定朔弦望の計算方法は、寛政暦の場合と全く同じ。月距日(太陰黄道実行 - 太陽黄道実行)が、本日 0:00 時点では限度以下だが、本日 24:00 時点では限度より大きい、というような「本日」を探し、本日 0:00 時点で、月距日が限度に満たなかった角度量(限度 - 月距日)を、一日月距日実行で割って、定朔弦望の時刻(平均太陽時)を求める。

その時刻における太陽平行・太陽黄道実行・太陽赤経を求めて、時差総を求め、定朔弦望の日時(平均太陽時)に時差総を加味して、定朔弦望の日時(真太陽時)を求める。

このようにして求めた定朔日を頒暦の各暦月一日と比較したところ、すべて一致する。

ちなみに、平均太陽時と真太陽時とで、朔日の日付が相違するものが 2 件。

  • 嘉永三(1850)年九月朔
    • 平均太陽時: 1850-10-05T23:59:41
    • 真太陽時 : 1850-10-06T00:11:14
  • 慶応二(1866)年四月朔
    • 平均太陽時: 1866-05-14T23:59:32
    • 真太陽時 : 1866-05-15T00:03:24

 真太陽時の日付で算出する必要があるので、注意が必要である。

 

閏月の求め方についての記述「内、中気無きものを閏月と為す」も寛政暦とまったく同じだが、「まったく同じでいいのか?」という疑問が。寛政暦では置閏の基準となる中気は平気であり、天保暦では定気なのだが、そのあたりは、新法暦書の記載ぶりからはまったく読み取れない。「寛政暦は平気法、天保暦は定気法」というのをアプリオリに知っている必要がある。

天保暦においては、定気法の置閏問題が発生する。これについては以前書いたので、

の項を参照されたい。具体的には、嘉永四(1851)年、明治三(1870)年で発生する。所謂「旧暦2033年問題」は、天保暦施行期間中は発生しないわけだが、嘉永四(1851)年、明治三(1870)年の置閏がちゃんとできるような実装にはしておかねばならないので、いっそのこと「旧暦2033年問題について」に記載した旧暦2033年問題対応おすすめ置閏ロジックで実装してしまうことをお勧めする。

経朔弦望

朔策二十九日五三零五八七七八六六零七
朔応二十一日二零四零六四一四
求通朔「置積日、減朔応、得通朔。上考往古、則置積日、加朔応、得通朔」
積日を置き、朔応を減じ、通朔を得。上って往古を考ふるは、則ち積日を置き、朔応を加へ、通朔を得。

求積朔及天正経朔「置通朔、以朔策除之、得数為積朔。以余数減紀日(不足減者、加紀法減之)、為天正経朔日分。上考往古、則置通朔、以朔策除之、得数加一為積朔。余数加紀日、減朔策(不足減者、加紀法減之)、為天正経朔日分」
通朔を置き、朔策を以ってこれを除し、得る数積朔と為す。余数を以って紀日を減じ(減に足らざるは、紀法を加へこれを減ず)、天正経朔日分と為す。上って往古を考ふるは、則ち通朔を置き、朔策を以ってこれを除し、得る数一を加へ積朔と為す。余数、紀日を加へ、朔策を減じ(減に足らざるは、紀法を加へこれを減ず)、天正経朔日分と為す。
\[ \begin{align}
\text{朔策} &= 29.530587786607_\text{日} \\
\text{朔応} &= 21.20406414_\text{日} \\
\text{通朔} &= \text{積日} - \text{朔応} \\
\text{積朔} &= \left[ {\text{通朔} \over \text{朔策}} \right] \\
\text{天正経朔} &= \text{天正冬至次日} - (\text{通朔} \mod \text{朔策})
\end{align} \] 
定朔弦望を求めるためには、\(\text{本日 0:00 月距日} \leqq \text{限度} \lt \text{次日 0:00 月距日}\) となるような日を探さないといけないが、なんの手掛かりもなく探すのも大変だ。経朔弦望(平朔弦望)の日時を求めて、そこから探しはじめるとよいだろう。

寛政暦と同様、月離(新法暦書巻二)には経朔弦望の算出式が掲載されていない。日月食(新法暦書巻三、巻四)に掲載されているので、そこを参照する。

定数(朔策、朔応)が異なっているだけで計算方法は寛政暦のときと同じ。天正経朔(天正冬至直前の経朔)の算出式まで記載した。経朔を求めるには、天正経朔日時に朔策を累加すればよく、また、弦望も求めたいのであれば、弦策(朔策の 1/4)を累加すればよい。


次回は、月の黄緯を算出する。

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[参考文献]

渋川 景祐; 足立 信頭「新法暦書」 国立公文書館デジタルアーカイブ蔵

渋川 景祐; 足立 信行「新法暦書続編」 国立公文書館デジタルアーカイブ蔵

長沢 工 (1981, 1985)「天体の位置計算 増補版」, 地人書館 ISBN-9784805202258

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